2021 Fiscal Year Research-status Report
キプリングが描く「病い」の検証―大英帝国崩壊前後における不安の表象研究
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21K00400
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松本 和子 東京理科大学, 教養教育研究院葛飾キャンパス教養部, 教授 (90385542)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | キプリング / 病い |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、①キプリングの小説における病いの俯瞰が可能な〈病いの見取り図〉の作成、②キプリング自身の病いに関する伝記的検証、③研究成果の発表 の三点に注力して研究を実施した。 ①については、作中に登場した病いを抽出しそれらを時系列で整理・分類する系譜的研究を具体的内容とする。帝国主義のイデオロギーを強烈に反映した作品で知られるキプリングが、当時の理想にかなった大英帝国の担い手にふさわしい体力・精神力に恵まれた登場人物のほかに、病んだ登場人物も数多く描いていたことを明らかにする点に意義と重要性が求められる。 ②については、キプリングの生涯を忠実にたどるすぐれた先行研究と書簡集をもとにキプリングが患っていた病気の調査を内容とする。調査の意義と重要性は、作中に登場する明るく溌溂とした少年や強靭な精神と肉体を誇る成人男性が、必ずしも作者であるキプリングとは重ならないどころか、踏み込んで言うなら対極にすらある人物像であることが示された点にある。 ③については、2022年3月26日(土)に駒澤大学で開催されたキプリング協会全国大会での口頭発表(「"The Man Who Would Be King" から読み解くキプリングとコンラッドの距離」)が具体的内容となる。初期の作品「王になろうとした男("The Man Who Would Be King")」を題材に、イギリスの帝国主義に倣って僻地に王国を建設しようと目論んだ主人公が王になる野望に憑りつかれた結果すべてにおいてバランスを崩して自己破滅する過程を、同時代の作家の作品を引き合いに出しながら論じた。中・後期の作品に登場頻度が増す精神的病い、特にオブセッションが引き金となって発症する病いを患った登場人物の先駆けとしてこの主人公を位置づけられたことに意義と重要性がみられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主な理由は次の通り。①作品数の多さと読解の難しさ:系譜的研究を行うために扱う作品数がひじょうに多く、さらに初期のインドを扱った作品に顕著なこととして、現地表現を交えた英語が難しく読解に多大な時間を要した。 ②背景知識獲得までにかかる時間の多さ:当時の医学的言説の調査が難航し、全体の進行を妨げた。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べたように当初の計画通りには進んでいないため、2022年度は2021年度分研究の積み残しを抱えながらのスタートとなっている。したがって、全体的にスピードアップが必要なことを念頭に置いて研究を推進する。目標としては研究実施計画通り、インドを舞台とする初期作品に登場する病いの検証と考察をテーマに掲げ、日射病やコレラといった主に肉体面での病いの描写に、不眠症や神経症といった内面的な病いの描写が加わる傾向が強まっている点に着目し、その傾向が、イギリスの植民地経営の行き詰まりが人々に与える不安の高まりと一致している可能性を探っていく。
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Research Products
(1 results)