2022 Fiscal Year Research-status Report
ポストヒューマン時代の芸術が探る環境世界のバランスと共生への地図
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21K00402
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
虎岩 直子 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (50227667)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ポストヒューマン / 他者との共生 / 環境 / 視覚芸術と文学 / アイルランド現代詩 / シネード・モリッシー / 病気 / トランスレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
人間による自然環境搾取が主原因ともされるこの度のパンデミック、新型コロナウイルス感染症蔓延後、学会や展覧会を含めたさまざまな文化イヴェントがほぼ初めて大々的に対面で実施された本年、世界中の主だった学術・文化イヴェントのテーマは「環境と人間」の関係を探るという意識が根幹にあった。この問題は当該研究のテーマ「環境と芸術」と呼応する。当該研究者は、本年度、文学学会に積極的に参加し発表したことに加えて、当該研究費を使って、カッセル・ドクメタ、ベルリン・ビエンナーレ、ヨークシャースカルプチャーパーク、国内では瀬戸内国際芸術祭などの視覚プロジェクトを積極的に取材した。 まず7月下旬はアイルランド共和国リムリック大学で開催された国際アイルランド文学学会で、環境とのバランスのとれた関係を模索する芸術の役割について現代英語詩人シネード・モリッシーの作品を中心に、ポストヒューマンの視点から論じた。 8月には、インドネシア語で共有の米倉を指す言葉「ルンブン(LUMBUNG)」をテーマにしたドクメンタ15を取材し、危機に瀕した環境世界で、収穫した米を分け合うように共同体、ひいては世界中の情報や知識──知的資源や物的資源を共有し、分け合っていこうというメッセージの視覚表象ヴァリエーションを取材した。続いてStill Present!というテーマで惑星規模の危機に瀕している状況に関わっている芸術家の活動に焦点を当てたベルリンビエンナーレを取材した。ヨークシャースカルプチャーパークのテーマは“Can art save us from extinction?”であり、これらの取材からとくに文学作品に言及しつつ視覚表象の領域から「環境と人間」への取り組みを考察した。 年末には当該研究テーマと大きく関わるシンポジウム(昨年度開催)の書籍化出版、またリムリック大学での口頭発表を所属大学院紀要で論文出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該研究はパフォーマンスや短期期間限定の展覧会、実作者へのインタヴューなどのため海外出張による資料収集が不可欠であるが、新型コロナウイルス蔓延 のため2年間出張ができなかった。本年度はかなり活発にヨーロッパ地区及び日本国内での資料収集に努めた。また正式な形ではないが国内外の実作者(文学、視覚芸術)への面談も行った。シンポジウムの書籍化も行い、口頭発表を論文として発表もしたが、まだようやく一年半分の成果と考えている。当初の計画からは半年ほど遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度は7月下旬にエジプトのブリティッシュ大学カイロ校で開催予定の国際アイルランド文学学会大会に発表参加する予定である。大会のテーマは「サスティナビリティ」である。いまや誰もが口にするようになった「サスティナビリティ」は芸術領域よりも、自然科学及び実学学実領域で議論される用語であるが、当学会では文学における、文学による、サスティナビリティを考える。本研究者は現代アイルランド詩を材料に、芸術における持続可能性への取り組みを考察する予定である。 8月はイングランドとスコットランドで資料収集と実作者インタヴューに努める。 10月には国際アイルランド文学学会日本支部開催の国際学会大会でシンポジウムのパネリストとして発言を予定している。総合テーマはEvolutions/ Dissolutionsであり、本研究課題のポストヒューマンの視点から、「進化、発達」の過程が当然辿ることになる「解体、分解」、そしてその先に希求する新たな「結びつき、共存」について、提言する。 上記の口頭での発表活動と並行して9月末までに、「記憶と芸術」というテーマで人間(ヒューマン)について特徴的である記憶が担うべきポストヒューマン的世界への役割を、芸術の役割と連動させて論文とし、本年度中の出版を目指している、 2023年度は本課題研究の最終年度に当たるが、上記の出版をひとつの成果として仕上げ、さらに本課題研究を文学・芸術のサスティナビリティに関連させ、次なる課題の準備を行う。すでに次の課題研究で共同研究者として招きたい実作者と研究者、O. R. Melling氏とMichael Cronin氏へのアプローチを開始している。
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Causes of Carryover |
2021年から3年間計画の課題研究であるが、2021年度は発表出張を予定していた国際学会はオンラインとなり、また同年夏期休暇に計画していた取材等を目的とした出張も、新型コロナウイルス感染症蔓延下でままならなかった。本年度は積極的に研究取材、海外での発表活動が行えたが、パンデミックのため計画が約半年から一年ほど遅れている。そのため中止となった出張経費を次年度仕様とした。
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