2021 Fiscal Year Research-status Report
20世紀転換期の新しい女性小説と住空間の関係性―ウォートンとギルマンの場合
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21K00404
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イーディス・ウォートン / シャーロット・パーキンス・ギルマン / ドメスティシティ言説 / 住空間 / 女性の主体形成 / ジェンダー・スペース / マテリアル・フェミニズム / アフェクト理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
ウォートンの第1次世界大戦後に書かれた代表作『無垢の時代』における住空間のメタファー、およびプライベート空間と主要な登場人物の身体性の関係性について、令和2年に国際ウォートン学会で発表する予定であったが、コロナ禍のため次回は令和5年と決定された。今年の開催を想定していたが、ニューヨークでのウォートン研究家との意見交換やリサーチを中止せざるをえなくなった。ニューヨーク市でのリサーチについては、翌年令和5年度に先送りし、マテリアル・フェミニズム関連の論考や女性の主体性と空間の関連性についての資料収集を進めた。令和4年度の研究成果としては、以下の研究発表1件と『ジェンダー事典』(丸善出版、2022年12月刊行予定)の項目「アメリカ文学」の執筆である。 同志社大学アメリカ研究所 第1部門研究 「被抑圧者たちの抵抗と再生―アメリカにおける歴史記憶と文学表象」において、研究発表を行った(2021年6月27日Teamsによるオンライン開催)。論題は「女性の空間創出と文学的想像力―アンテベラム期から20世紀転換期の住空間論の変遷」である。前回の科研のテーマ(「ウォートンの創作と建築の連携―空間の創出から文学的想像力へ」)の成果を概略し、1830年代から20世紀転換期までのアメリカの住空間論の歴史的文脈にウォートンの住空間論を再定置し、今後の展開として世紀末のマテリアル・フェミニズムについても言及した。 『ジェンダー事典』では、「アメリカ文学」の項目を担当した。主にアメリカ独自の文学市場が確立する19世紀中葉から現代にいたるフェミニズム文学を概観した。 学会活動においては、日本英文学会全国大会とアメリカ文学会関西支部例会において、本研究のテーマと関連性の深い発表の司会を行い、ウォートン論や世紀末の住空間論について有益な意見交換ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画の中心は、令和2年度に中止になった国際ウォートン学会が開催され、その訪米の機会にニューヨーク市を中心にリサーチを行うことであったが、パンデミックの状況によって次回の国際学会は令和5年度に開催されることが決定された。コロナ禍の収束が不透明であり、本研究の2年目に計画していた、マテリアル・フェミニズムやジェンダー空間に関する文献資料を収集した。同志社大学アメリカ研究所の部門研究会において、歴史研究者との意見交換は、歴史的な観点からの女性の空間創成やジェンダー空間についての指摘を受け、今後の研究展開に大変有意義であった。また特に、関西支部例会において奈良女子大学の中川千帆氏のご発表「家を読み解く:Anna Katharine Greenの“domestic detective fiction”」で司会役を仰せつかり、ジャンルは違うがほぼ同じ時代の女性作家を扱い、また住空間論に関心があることで、意見交換ができた。中川氏はご自身の科研プロジェクト「家と自己-ゴシックと犯罪小説研究」で犯罪小説における家の表象について研究を進められていて、探偵小説というジャンルでのジェンダー空間論から多くの示唆を得た。コロナ禍の状況の初年度で、まだ成果として形にはできなかったが、今後の展開に有意義な研究者との交流ができ、また文献収集を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ウォートンから本研究のテーマであるもう一人の女性作家であるギルマンの研究を進めていく予定である。シャーロット・パーキンス・ギルマンは『ホーム』(1903)において、独自のフェミニストとしての主張を展開し、ドメスティシティ言説や性別役割分業に疑義を呈し、マテリアル・フェミニストとして、女性の空間について急進的な提案をした。こうした女性の視点からの空間造形は、19世紀後半に女性の建築家の誕生や1893年のシカゴ万博での「女性館」の役割、さらにジェーン・アダムズのセツルメント・ハウスにも通底し、同時代の女性たちが私的/公的空間の創出と社会活動を通して、「家庭の天使」としてドメスティックな空間に封じ込まれていた立場から社会に参画するためのエンパワーメントと共振するものである。ウォートンもギルマンも女性空間についての提言だけではなく、文学テクストにおいても空間知覚が女性の身体や記憶に作用する作品を書いいており、今後、両者の提言の内容と社会活動として実践した女性空間の考察とともに、創作において住空間と個としての女性の内面の関係性を作品化する新しい女性小説を取り上げる。その際、アメリカ心理学の祖とも言われるウィリアム・ジェイムズのプラグマティズムや現象学を援用しながら、女性の内面世界の作品化を考察し、19世紀半ばの「家庭小説」を脱却した新たな女性小説の手法を論じる。
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Causes of Carryover |
当初予定していた米国ニューヨーク市での国際ウォートン学会が不開催となり、それに伴って、ニューヨークでのリサーチなどが実行できなかったため、その費用を次年度以降に繰り越し、海外でのリサーチの計画を再調整中である。
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Research Products
(1 results)