2023 Fiscal Year Research-status Report
20世紀転換期の新しい女性小説と住空間の関係性―ウォートンとギルマンの場合
Project/Area Number |
21K00404
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | イーディス・ウォートン / シャーロット・パーキンス・ギルマン / ドメスティシティ言説 / プラグマティズム / 女性の主体形成 / ジェンダー・スペース / マテリアル・フェミニズム / 建築と住空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は20世紀転換期の新しい女性小説の創出と住空間の関係性について、主にウォートンを中心に進め、国際学会と国内学会でそれぞれ研究発表を行い、学界からのフィードバックを受けて、今後論文化する計画である。 本年度前半は、第9回国際ヘンリー・ジェイムズ学会(7月5日―7日)の開催国側として、国際ヘンリー・ジェイムズ学会とともに、企画や運営に携わりながら、ウォートン作品のドメスティシティ(家庭や家族像の表象)の変遷を“The Children’s Hour in Modern Times in Edith Wharton”という論題で発表した。 12月17日に開催された日本英文学会第18回関西支部大会において、「ドメスティシティと個の空間―Edith WhartonのThe House of Mirthの場合」(招待発表)を発表した。women’s fictionの系譜に本作品を再定置しつつ、実人生においてもまた創作のなかでも、ウォートンが19世紀半ばの家庭小説で称揚されたドメスティシティ言説から脱却し、ジェンダー化された空間やジェンダー規範を脱構築していく軌跡を、主人公Lily Bartの転落の軌跡と重ね合わせながら論じた。 2021年度末に1項目寄稿した、ジェンダー事典編集委員会編『ジェンダー事典』丸善出版(総ページ769頁)が1月に刊行された。(執筆担当:「アメリカ文学」506-507頁。) 神戸市立外国語大学「Research Project B」研究班(研究テーマ:「プラグマティズム再考:ジェイムズ兄妹とモダニティ」)の一員として、20世紀転換期の経験論的思考についてウィリアム・ジェイムズの著作を読み、ウォートンやギルマンの女性作家の文学テクストにおける情動や認知行動の役割を理解するうえで大きな示唆を得ることができ、次年度に成果を発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年4月末に骨折し、今年度再手術(抜釘手術)のための入院と治療が必要となり、時間的に制約され、本年度の成果を論文化できず、海外でのリサーチの時間が確保できなかったが、国際学会と国内学会で研究成果を発表し、また国際学会の企画や活動に携わることで、専門性の近い国内外の研究者と今後の展開に有意義な意見交換ができたことは、大きな成果であった。 当初の研究計画では、ウォートンの建築と著述業の関係性とその文学テクストにおける住空間と女性像の関係性を検証し、さらにギルマンが論文で展開したマテリアル・フェミニズムをジェンダー空間の創成から、さらに女性の社会進出やエンパワーメントのための空間づくりに展開する予定であったが、アフェクト理論やウィリアム・ジェイムズのプラグマティズムを援用しながらウォートンやギルマンの文学テクスト解釈を試みた。海外でのリサーチが難しかったため、文化的歴史的側面より、文学研究の観点からの考察に研究の方向性を修正した。19世紀半ばから20世紀転換期までのwomen’s fictionの系譜をたどるには、家庭小説で称揚されたドメスティシティ(家庭性)言説や家族像の変遷についての考察が不可欠であり、特にウォートンの文学テクストにおいてドメスティシティからの脱却や個人の空間やプライバシーの重要性がどのように作品化されているかに注目した。次年度は、論文化に注力しつつ、研究助成期間の延長が認められたので、ウォートンとギルマンそれぞれが社会活動を通して女性のエンパワーメントのためにどのような空間を創成したのかを考察する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、19世紀に家庭という空間に閉じ込められていた女性たちが個人主義に目覚めたときに、ドメスティシティ言説から脱却し、どのように個の空間や主体を形成していくか、19世紀の家庭小説から新たな女性小説の手法への変容を考察している。当初の計画から、文学研究の観点からの考察を増やしたため、20世紀初頭の女性の空間についての文化的社会的な考察がやや遅れている。しかしながら、文学テクストにおけるドメスティシティ言説の変遷についての研究は本研究にとって大変意義深いものである。今後は、ウォートンについての論考を論文化しつつ、同時期に創作活動をしたギルマンについての研究に徐々に移行する。全く異なった背景を持ちながらも、両者は女性の主体形成に個の空間が如何に重要かに着目したのである。マテリアル・フェミニストとして、女性の空間について急進的な提案をしたギルマンの『ホーム』(1903)を中心に、ドメスティシティ言説や性別役割分業に疑義を呈した独自のフェミニストとしての主張を検証する。以前から、さまざまな観点からの世紀転換期の建築やフェミニズムの文献を収集してきた。住空間に関するフェミニストとしてのギルマンの提言は、19世紀後半に女性の建築家の誕生や1893年のシカゴ万博での「女性館」の役割、さらにジェーン・アダムズのセツルメント・ハウスにも通底し、同時代の女性たちが私的/公的空間の創出と社会活動を通して、「家庭の天使」としてドメスティックな空間に封じ込まれていた立場から社会に参画しようとする動きと共振するものである。ウォートンとギルマンがフェミニストとして、それぞれのテクストで展開した住空間論をどのように実践し、社会にどのように影響を与えたかについて検証する予定である。女性の住空間に関するエンパワーメントの方策については、今後アメリカでのリサーチを具体化していきたい。
|
Causes of Carryover |
骨折のあとの抜釘手術のための入院と治療や、1年順延された第9回国際ヘンリー・ジェイムズ学会の企画や運営のために、予定していた海外での資料収集が実現できなかった。またコロナ禍で延期されたと思っていたイーディス・ウォートン学会は、開催が未定の状況で、学会参加の計画ができず、予算執行が当初より進まなかった。次年度はアメリカでのリサーチを計画する予定である。
|