2023 Fiscal Year Research-status Report
テクスト分析を用いたホロコースト否定論者の思想的背景の考察
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21K00409
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
渡辺 将尚 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (90332056)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ホロコースト / ホロコースト否定論 / アウシュヴィッツの嘘 / ナチズム / 戦後ドイツ / 理念の喪失 |
Outline of Annual Research Achievements |
調書執筆時に立てた計画は,令和3年度を「先行研究整理段階」,令和4年度を「分析対象選定段階」,そして令和5・6年度を「仮説実証段階」とするというものであった。本研究は概ねこのスケジュール通りに進んでおり,当年度は前年度までに立てた仮説の立証を試み,報告者が所属する学会の全国大会において成果を発表することができた。 まず「問い」であるが,これは計画調書の段階ですでに設定していた,「ホロコースト否定論をもっとも活発に主張してきたのが,なぜイギリス・フランス・アメリカ等,ドイツ以外の人々なのか」から少し視点を変え,「1970年代になってようやくドイツで否定論が噴出し始めたのはなぜなのか」を追及するものとした。 この問いに対する報告者の仮説は以下のようなものであった。すなわち,70年代に入り,戦後もなおナチズムを信奉し続けるいわば「残党たち」の中で,「理念の喪失」なる現象が生じたのではないかということである。彼らはホロコーストを否定し,今なおナチズムに忠誠を誓っているかのように振る舞うが,その思考の内部では,すでにナチズムの理念は失われており,あるのはただナチズムのもとに実行された行動・事実,あるいは主張された思想の個々の要素だけである。ドイツのホロコースト否定論は,個々の要素がいわば「データベース化」し,自らの描きたい物語に従って自由に再構成できるようになった状態から生じたのではないか。 全国大会において行った発表では,1973年に否定論を主張し,ドイツでの先駆と位置付けられるティース・クリストファーゼン,彼に触発される形で否定論を主張し始めたマンフレート・レーダーの言説を詳細に分析することによって,上記仮説の論証を試みた。会場では,別の角度から報告者の仮説に賛同する声が出るなど,概ね肯定的な評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年5月よりメニエール病を発症し,飛行機による移動ができない状態となった(病状は現在も継続している)。したがって,ドイツにおける資料収集は行うことができず(このことについては,所属機関に報告・相談済みである),国内で入手できる文献のみで研究を行わざるを得なかった。「研究実績の概要」の項目において,当該年度に上げた成果について記述したが,より多くの文献を用いることができれば,より論証の精度を上げることができた可能性もある。しかし,これも上に記述したように,発表において論証不足であるとの指摘を受けることはなく,報告者本人としてもある程度の成果を上げられたという自負がある。そのため,「(3)遅延」ではなく,「(2)概ね順調」を選択させていただいた。
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Strategy for Future Research Activity |
報告者は次なる課題を,ナチズムの影響を受けなかった,あるいは影響がほんのわずかであったはずの人間たちが,なぜホロコースト否定論を主張するのか,というところに置いている。具体的には,1939年生まれのエルンスト・ツュンデルなどが挙げられる。1939年はドイツがポーランドに侵攻し第二次大戦が始まった年であるし,彼が終戦を迎えたのはわずか6歳の時である。 本年度は,病状が回復すればドイツでの資料収集を行うが,不可能な場合,引き続き国内で入手できる文献で研究を進める。
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Causes of Carryover |
すでに記述したように,メニエール病の発症により,年度中のドイツ渡航がかなわなかった。残額35万円ほどは,このために用意していた額がそのまま残ったものである。令和6年度は,病状が回復次第ドイツ渡航の計画を立てるが,前年度の分も合わせて2回渡航することができるか,あるいは研究の進行上妥当なのか,慎重に考慮したい。 病状が回復しない場合は,今年度も資料の購入および国内旅費でできる限りのことを行うが,成果が不十分な場合,研究期間の延長ないしは課題自体の廃止を願い出る可能性もある。
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