2022 Fiscal Year Research-status Report
中世フランス語版『リュシデール』の言語地理学的・文献学的語彙研究
Project/Area Number |
21K00410
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松村 剛 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00229535)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世フランス語 / フランス語史 / 語彙論 / 文献学 / 言語地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度には、ホノリウス・アウグストドゥネンシス (Honorius Augustodunensis) が1100年頃に書いたラテン語版『エルキダリウム』(Elucidarium) から13世紀前半に中世フランス語に翻訳された『リュシデール』(Lucidaire) に関して、13世紀中葉から14世紀初頭にフランス北東部とシャンパーニュ地方とリヨン地方で作成された4点の写本(パリ、フランス国立図書館に所蔵され、それぞれの分類番号はフランス語写本423番、1036番、19220番および新収フランス語写本10034番)の写真版と、2000年に Monika Turk が上梓した校訂版 Lucidaire de grant sapientie. Untersuchung und Edition der altfranzisischen Ubersetzung I des Elucidarium von Honorius Augustodunensis (Tubingen, Max Niemeyer) を比較検討し、確実なテキストを作成する作業を令和3年度に続けて行なった。他方、各種辞書および先行研究における『リュシデール』の引用を再検討し、それらの解釈の妥当性を文献学的に調査し、不十分と思われる場合は修正する作業も続行した。さらに、『リュシデール』に含まれる、フランス語史と言語地理学の観点から注目に値する単語と表現の収集作業にも続けて従事し、この作品がそれらの観点からもつ意義を裏づける点を強調しつつ、フランス語史ならびに言語地理学における従来の知見を補完する作業も続行した。また、関連するラテン語作品ならびにフランス語作品を収集し、それらを批判的に検討し、問題点と意義を明らかにしつつ、補足的な情報を整理する作業も令和3年度に続けて行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホノリウス・アウグストドゥネンシス (Honorius Augustodunensis) によるラテン語版『エルキダリウム』(Elucidarium)(1100年頃) から13世紀前半に中世フランス語に翻訳された『リュシデール』(Lucidaire) を現在に伝える写本のうち、13世紀中葉から14世紀初頭にフランス北東部とシャンパーニュ地方とリヨン地方で作成された4点の写本(パリ、フランス国立図書館、フランス語写本423番、1036番、19220番および新収フランス語写本10034番)の写真版と、2000年に Monika Turk が上梓した校訂版 Lucidaire de grant sapientie. Untersuchung und Edition der altfranzisischen Ubersetzung I des Elucidarium von Honorius Augustodunensis (Tubingen, Max Niemeyer) を比較検討し、確実なテキストを作成する作業はおおむね着実に進めることができた。他方、各種辞書と先行研究における『リュシデール』の引用を再検討し、それらの解釈の妥当性を文献学的に調査し、不十分と見なされる場合には修正する作業に関しても、いくつかの問題点を発見した。さらに、『リュシデール』に含まれる単語と表現の中で、フランス語史と言語地理学の観点から注目に値するものを収集する作業では、従来見落とされていた用例を見つけることができ、この作品がもつ意義を裏づける点を強調することができた。また、関連するラテン語作品ならびにフランス語作品を収集し、それらを文献学的および語彙論的な観点から批判的に検討し、問題点と意義を明示しつつ補足的な情報を整理する作業においても確実な成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度には、前年度までの研究に基づき、中世フランス語版『リュシデール』のテキストを確定する作業を、13世紀中葉から14世紀初頭にフランス北東部とシャンパーニュ地方とリヨン地方で作成された4点の写本と、2000年に Monika Turk が上梓した校訂版との比較検討を通して完成させる。他方、各種辞書と先行研究における中世フランス語版『リュシデール』の引用を再検討する作業を完成させ、それらの解釈の妥当性を文献学的および語彙論的に調査し、従来の知見がいかに補足できるかをまとめつつ、『リュシデール』に含まれる、フランス語史および言語地理学の観点から興味深い単語と表現の収集をまとめ、それらの語彙の意義を明確にする。さらに、関連するラテン語作品ならびにフランス語作品の収集および批判的な検討の作業も続け、その問題点と意義を明らかにしつつ、従来の語彙研究をいかに補足できるかを詳細に調査する作業を行なう。状況次第ではあるが、可能であればパリのコレージュ・ド・フランス名誉教授 Michel Zink 氏と、この中世フランス語版『リュシデール』の文献学的な視点からの研究打ち合わせを行なうために出張する。
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