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2023 Fiscal Year Research-status Report

第二次世界大戦後のトリエステにおける「記憶の場」としての文学

Research Project

Project/Area Number 21K00411
Research InstitutionThe University of Tokyo

Principal Investigator

志々見 彩 (山崎彩)  東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30750046)

Project Period (FY) 2021-04-01 – 2026-03-31
Keywordsイタリア文学 / 第二次世界大戦 / トリエステ / 記憶
Outline of Annual Research Achievements

トリエステ出身のマリーザ・マディエリ(1938-1996)について分析に取りかかった。第二次世界大戦後、ユーゴスラヴィア領土となったイストリア半島にいた多くのイタリア系住民が難民となったが、マディエリはそのような難民として9歳の時にトリエステへ来て、難民キャンプであった穀物倉庫「シロス」で成長した。マディエリの残した回想録Verde acqua (『水緑色』1987)を取り上げて、時を経て「記憶」から当時の感情が取り除かれた後に残される言葉のあり方を考察した。
また、引き続きクラウディオ・マグリス(1939- )についての分析も続行した。マグリスの執筆活動は新聞の文化欄へのエッセイと虚構作品のふたつに分かれている。前者の執筆、つまり新聞の文化欄のためにマグリスが収集したエピソードは、しばしば、その後で何年もたってから彼の虚構作品の中に取り込まれることがある。それはちょうど、十四世紀にボッカッチョが『デカメロン』執筆の際におこなった作業と似ている。『デカメロン』の構造と同様に、マグリスの小説にも独特の構造が見られる。ここに着目し、マグリスの小説構造が年を経るごとに複雑になっていったことを指摘して、その意味について考察した。
プリーモ・レーヴィ(1919-1987)については、過去の文学作品、特に、ダンテ『神曲』やアリオスト『狂乱のオルランド』といった中世・ルネッサンス期の古典的文学作品が材源として利用され、それまでにない新しい体験を語る際に、すでに読者に定着している古典文学作品のイメージが利用されているということを考察し、公開講座での講演という形で発表した。
2023年はイタリアで文献の調査することもできた。研究者たちと会って、トリエステでは、資料収集に加えてクラウディオ・マグリスに会うこともできた。そこでマディエリについて尋ね、研究の着想を得た。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

マディエリについての考察を深めていく必要がある。また、マディエリについては発表もしなければならない。マグリスの作品の翻訳を進めなければならないところ、他の書籍の翻訳に時間を取られていてなかなか進められてない。

Strategy for Future Research Activity

時間が経過するにつれて、記憶は次第に最初の複雑さを失って、単純な形になっていく。その様子は、水に削られた石が次第に丸くなっていく様子に似ている。遠い日の記憶は、ごつごつとした「本当らしさ」を失って、さらになんらかの虚構を加えられて言語化される。その様態を、引き続き、トリエステという常に国境線をめぐって争いが起きていた町において書かれた文学に着目して分析していきたい。
これまでのマグリスやマディエリの作品を読んだ上で、ばらばらに断片化された記憶をどのようにひとつの作品にまとめるかということを考察する必要性に気づいた。断片化された記憶はどのようにして言語化されうるのか。
プリーモ・レーヴィの場合には、まず、詩を書くという行為があり、次に、断章が書かれた。そして、それらがひとつのより大きな作品へと統合されていった。マリーザ・マディエリの作品には日記と回想が交互に現れて現在から過去へと絶えず跳躍を繰り返すことによって過去が呼び戻される。そして、クラウディオ・マグリスは過去の出来事を収集し、それらを非常に凝った構成の中に配置する。記憶が言語化され、さらにテクストになる課程について、もう少し考えてみたい。
また、記憶を小説として書くという作業について、まだ読まなければならない作家が数多くいる。イストリアからトリエステに難民としてやって来たもう一人の作家フルヴィオ・トミッツァ(1935-1999)の作品も考察する必要がある。また、ハンガリーからイタリアへやってきて、その後トリエステに住んだジョルジョ・プレスブルゲル(1937-2017)や、アウシュヴィッツから生還し、その後イタリアに移住してイタリア語で書いたエディス・ブルック(1931- )の作品も分析したい。

Causes of Carryover

一昨年度まで三年間イタリアへ行って資料収集をするための旅費を使えなかったために、予算を充分に使用できなかった。しかし、急激な円安進行のために、次年度使用額が必要になるのではないかと考えている。イタリアで資料収集すること、また、引き続きインターネット書店を活用して、必要な海外図書の購入も積極的におこなっていく予定である。

  • Research Products

    (2 results)

All 2024 2023

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 2 results)

  • [Journal Article] 迷宮の構築 : クラウディオ・マグリスの小説における複雑な語りの形態について2024

    • Author(s)
      山﨑 彩
    • Journal Title

      イタリア語イタリア文学 : 東京大学大学院人文社会系研究科南欧語南欧文学研究室紀要

      Volume: 9 Pages: 211~232

    • DOI

      10.15083/0002009744

    • Open Access
  • [Journal Article] クラウディオ・マグリス『公訴棄却』におけるアイロニー2023

    • Author(s)
      山﨑 彩
    • Journal Title

      イタリア学会誌

      Volume: 73 Pages: 49~71

    • DOI

      10.20583/studiitalici.73.0_49

    • Peer Reviewed / Open Access

URL: 

Published: 2024-12-25  

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