2021 Fiscal Year Research-status Report
滞日期のポール・クローデルの日本画の受容とその文学的影響に関する研究
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21K00421
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (90365461)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | クローデル / 象徴主義 / 新トマス主義 / 日仏交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1921年から日本に滞在したポール・クローデルへの日本絵画、とりわけ室町時代から江戸時代初期にかけての水墨画や狩野派の山水図の受容について分析するものである。 2021年度は、クローデルの文学作品、日記、書簡等で言及されている水墨画や山水図を特定する作業から始めた。クローデルの日本論集である『朝日のなかの黒鳥』や日記のなかでの記述は、詳細に自分が見た絵を描写しているが、そのほとんどは題名が記載されていないため、特定されているものが少ない状況であった。2021年度は、コロナ禍によって、取材等の制限があったが、それでも実際に、寺院を取材して、クローデルの記述と合致する絵画を推測・特定し、作者、題名等を明らかにすることができた。この調査によって、京都大徳寺の塔頭の真珠庵方丈の曽我蛇足の襖絵や同寺孤篷庵の狩野探幽の襖絵、雪舟の円相図、牧谿の芙蓉図などは特定できた。 一方、コロナ禍によって取材が制限されてしまったため、絵画特定の作業と並行して、クローデルがどのように水墨画や障壁画を理解したかについての考察に計画より早く着手した。水墨画は、中国を主題にしたものが多く、技法的にも写実性が少ないため、フランスでは日本の独自性の乏しい絵画芸術であると認識されていたが、クローデルは日本の絵画の本質は写実にあるのではなく、トマス・アクィナスの思想でもって、認識できないものを認識できるものにする媒介の機能に本質があると理解していたことを明らかにした。またこの時代、フランスの美術史家などの間でも水墨画が禅宗の思想と結びついたものであり、写実でなく、思弁的な主題をあらわしたものであることが主張されたが、これらの言説と比較して、クローデルの特異性を浮き彫りにする考察を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進んでいるが、2021年は新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言が発出されたため、当初、計画していた京都府・愛知県等での取材がほとんどできなかった。そのため、京都市の大徳寺の取材・調査を除くと、クローデルの作品等で記述されている日本絵画の実物を見ての確認作業ができず、この点で研究計画が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、新型コロナウィルスの感染拡大が終息してはいないが、都府県をまたいでの移動が緩和されたので、2021年度に計画したものの、実施することができなかった調査・取材を実行する予定である。また、クローデルが日本絵画を仏教思想などから切り離して、スコラ学から着想されたフレームで独自に受容し、読解していることを分析するために、トマス・アクィナス、ディオニシウス・アレオパギテス等の著作に関連付けて、クローデルの言説を読解する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルス感染拡大のため、当初、予定していた取材旅行が実行できなかったため。2022年度に改めて取材旅行を行うので、その旅費として使用する予定。
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