2022 Fiscal Year Research-status Report
滞日期のポール・クローデルの日本画の受容とその文学的影響に関する研究
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21K00421
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (90365461)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ポール・クローデル / フランス象徴主義 / 水墨画 / トマス・アクィナス |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、クローデルの思想に影響を与えた日本画、あるいは日本画家の調査を進め、クローデルが見た江戸時代初期の絵師、狩野探幽をはじめとする狩野派の絵画の特定を行った。クローデルは日記や作品のなかで水墨画や山水画を描写しているが、題名を書いていないため、クローデルの記述をもとに京都大徳寺の孤篷庵などの絵画を特定する作業を行った。たとえばクローデルの日記の「金地にすばらしい絵。鮮やかな緑の竹。相変わらず木の頂部は隠されていて、幹しか見えない。二つの『異なる』時間」と記されているのは、孤篷庵西の間の竹と梅の絵が描かれた襖であると実際に調査をして特定した。一方で、クローデルと親交のあった京都画壇の画家、竹内栖鳳の絵画技法なども分析し、京都国立博物館、京都国立美術館、京都市立藝術大学で調査をした。竹内栖鳳は、クローデルと識り合った頃、四条派の写実から水墨画の技法を使った画風に変化し、クローデルに余白の美学ともいうものを生み出させた。 これらの調査と並行して、クローデルが、日本の水墨画や山水画に見出したものの考察を行った。狩野探幽とその後の狩野派の山水水墨画にしても竹内栖鳳の水墨画も余白が重要な要素であるが、余白は描写対象をより効果的に引き立てるものであった。しかし、クローデルは余白を概念把握も表象もしえない非物質的存在の表象と考え、描かれた景物を媒介にして、非物質的存在を認識するものが日本の山水画や水墨画であると認識するようになった。このことをクローデルの散文作品である「日本文学散歩」や「自然と道徳」を用いて分析した。最終的にクローデルにとって、山水画に描かれた景物と余白は絵画上の技法なのではなく、非物質的なものを認識するための媒介であったと分析した。 また、この背景にはトマス・アクィナス等のスコラ学からの存在論があるが、同時に日本の禅宗の景況もうかがえることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は、概ね順調に進んでいるが、落ち着いたとはいえ、まだ新型コロナ・ウィルス感染の状況が続いた影響があり、取材・調査ができない部分がある。とりわけ、高齢者からの直接の聞き取りはほぼ実現できていない状況である。しかし、美術館、博物館等での調査は比較的順調に行うことができた。また山水画・水墨画のクローデルの影響への考察のための文献等の収集と分析も比較的順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、引き続きクローデルが見たであろう狩野探幽を中心とした狩野派の山水画の調査を行う。現在は京都の寺院が中心であるが、さらに西本願寺、大覚寺、大徳寺、南禅寺、黒谷金戒光明寺、東寺等クローデルが訪ねた寺院、および京都二条城二の丸御殿、名古屋城本丸御殿の障壁画、京都御所、修学院離宮、桂離宮等の襖絵等の調査を行う予定である。 一方、クローデルは山水画や水墨画の余白を存在を認識するためのものと理解し、余白をいわば存在論的に解釈したが、その解釈を生んだ背景には、トマス・アクィナスなどのスコラ学の非物質的なものを認める存在論が影響しているが、それと同時に日本の禅宗の影響も見て取ることができることから、禅宗の影響を今年度は、考察していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルス感染の状況が続いたため、当初、予定していた取材旅行が実行できなかった。2023年度に改めて取材・調査旅行を行うので、その旅費として使用する予定。
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Research Products
(1 results)