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2023 Fiscal Year Research-status Report

滞日期のポール・クローデルの日本画の受容とその文学的影響に関する研究

Research Project

Project/Area Number 21K00421
Research InstitutionKeio University

Principal Investigator

大出 敦  慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (90365461)

Project Period (FY) 2021-04-01 – 2025-03-31
Keywordsポール・クローデル / フランス象徴主義 / 水墨画 / トマス・アクィナス
Outline of Annual Research Achievements

2023年度は、クローデルの思想形成に影響を与えた日本画、及び日本画家の調査を引き続き行った。前年の2022年はクローデルと親交のあった京都画壇の竹内栖鳳との関係から、クローデルが日本画、とりわけ山水墨画をどのように見ていたかを考察したが、2023年度は、水墨画と深い関係のある禅宗及び大乗仏教の思想との関係から分析をした。クローデルは禅宗の「不立文字、教外別伝」の教えを「禅宗の根本原理のひとつに偉大な〈真理〉は言葉で言い表すことができないというものがある。真理は教えることができず、一種の伝染によって魂に伝わるのである」と理解している。「不立文字」の思想はクローデルの強い関心をひいたと考えられ、実際、「日記」、「自然と道徳」、『繻子の靴』などで繰り返し引用している。この禅宗の思想の実践として、クローデルは水墨画を捉えていたことを考察した。クローデルは水墨画の大きく取られた余白が言語化されない〈真理〉であると見做していた。実際には余白を多用し、独自の画風を確立した狩野探幽は、そこに描かれた事物を効果的に際立たせるものとして余白を用いたが、クローデルは、そこに描かれた事物を通して、余白としか表現できないものを絵の鑑賞者に想起させるという一種の認識論的装置に水墨画を読み換えた。この転換によって、クローデルは今度は、禅の思想をヨーロッパのスコラ学に接ぎ木をして、自己のなかで体系化を図った。すなわち、超越者あるいは絶対者は、人間の知性を超えているためにどのようなものか認識できない点で、禅宗の〈真理〉に通じる。そこから、彼は日常的な事物を通じて、どのようなものか認識できない超越者が存在することを認識させるということを試みようとしていることを明らかにした。クローデルにとって、この日常的な事物というものは文学であり、詩であるため、彼の文学的実践が超越者の認識を目指すものであることを論証した。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本研究は、調査と研究の二つの柱からなっている、このうち調査に関しては、障壁画、水墨画の探索・調査が十分でない面がある。クローデルが訪れた京都の寺院が所蔵している障壁画・山水墨画の調査は進んでおり、クローデルの記述している絵画を特定できているが、京都以外の地域、たとえば名古屋城本丸御殿の障壁画などの調査がまだ行われていない。またかつての財閥等が所蔵していた絵画は、現在、所蔵関係が不明なものが多く、これらの絵画の所蔵を確認し、調査することも課題として残っている。一方、研究・分析の方は概ね順調に進んでいる。クローデルの水墨画の理解は、禅宗の思想とトマス・アクィナス等のスコラ学の結節点としてあることを今年度は考察した。

Strategy for Future Research Activity

今後は、これまでに引き続き、クローデルの見た狩野派の絵画の調査及び大正期の京都画壇の画家たち(冨田渓仙、竹内栖鳳、山元春挙等)の作品と証言の収集と分析を進める予定である。クローデルの絵画の志向は、一つは同時代の京都画壇の画家たちの活動に向かう、もうひとつは江戸初期の狩野探幽らの絵画に向かっている。この両方の絵画の資料の調査と分析を進める方針である。一方、研究に関しては、これまで水墨画と禅宗等の仏教思想の関連でクローデルへの影響を見てきたが、クローデルが離日後に刊行する絵画論『眼は聴く』に納められている「オランダ絵画序説」で展開されている論に水墨画の思想の影響が見られることを論証することを予定している。このことによって、クローデルが日本絵画から弾き出した思想が、単位水墨画だけに当てはまるだけでなく、絵画全般にあてはまることを論証する予定である。
また、これまでの研究を単著としてまとめ、成果を公表する準備を進めることを計画している。

Causes of Carryover

2023年度中にこれまでの成果をまとめたものを書籍として刊行することを計画していたが、調査の進捗状況から最終年度の2024年度に成果報告書を兼ねて刊行することに変更したため。

  • Research Products

    (4 results)

All 2023

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 1 results) Presentation (1 results) (of which Invited: 1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] 魂の行方:ポール・クローデルの平田篤胤2023

    • Author(s)
      大出 敦
    • Journal Title

      現代思想

      Volume: 51 Pages: 294-305

  • [Journal Article] 響き合う〈魂〉: ポール・クローデルと平田国学2023

    • Author(s)
      大出 敦
    • Journal Title

      Stella

      Volume: 42 Pages: 127-142

    • DOI

      10.15017/7162043

    • Peer Reviewed / Open Access
  • [Presentation] 反復される問い:マラルメとクローデルの「これは何を意味するのか」2023

    • Author(s)
      大出 敦
    • Organizer
      関西マラルメ研究会
    • Invited
  • [Book] クローデルとその時代2023

    • Author(s)
      大出 敦編著
    • Total Pages
      378
    • Publisher
      水声社
    • ISBN
      9784801007246

URL: 

Published: 2024-12-25  

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