2023 Fiscal Year Research-status Report
後期マラルメの詩法における韻律と譬喩形象に関する研究
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21K00427
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
宮嵜 克裕 同志社大学, グローバル地域文化学部, 助教 (00411075)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | マラルメ / 半獣神の午後 / エロディアード / 発話行為 / ポリフォニー / ディアロジスム / 韻律 / 譬喩形象 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度前半は、(1)ドマン版『ステファヌ・マラルメ詩集』(1899年)を研究対象とし、個別の詩篇における韻律構成と譬喩形象との関係をポリフォニー言語理論やディアロジスム論の見地から考察し、(2)2023年度後半では、2021年度と2022 年度に実施予定であった『エロディアード』および『半獣神』草稿群の考察結果を綜合した上で、マラルメ後期詩学の諸特徴を「抒情主体」の観点から解明する予定であった。しかし、2022年度の「エロディアードの婚姻」の考察に膨大な時間を要したため、研究計画が半年以上も遅れ、(1)の考察はいまだ完了しておらず、したがって、(2)の考察もいまだ着手できていない。さらに、マラルメ詩篇における詩的発話行為において「抒情主体」がどのように関与しているかを理論的に考察していく過程で、「発話的審級」の概念が論者によって非常に多様であり、それぞれ独自の視点から形成されてきたことが判明した。このため、この「発話的審級」の概念をめぐって膨大な先行研究をあらたに再読し、概念間の共通点と相違点を網羅的に調査した上で、それを再構築していく必要性が発生した。この作業を通して、これまでのマラルメ研究では、「抒情的〈私〉」、「抒情主体」、「抒情的〈声〉」は、詩的テクストにおいて全く異なる水準に位置しているにもかかわらず、同一水準で扱われたり、さらに完全に混同されてきたことが明らかとなった。そして、このような3つの発話水準が混同されてきた背景には、詩の分析において、発話行為論やポリフォニー言語理論の観点からすれば、「語る主体」と「話者」と「発話行為者」は完全に異なる審級であるにもかかわらず、それらを厳密に区別せず、詩のテクストを単一の主体によって生産されるものと見なす暗黙の前提が依然として残存していることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度「実施状況報告書」ですでに記しているとおり、2022年度に、『エロディアード』草稿群(とりわけ「エロディアードの婚姻」)の考察に膨大な時間を要したため、2023年度の研究が半年以上遅れてしまった。 また、2021年度と2022年度はまだコロナ禍にあり、フランスに滞在してパリ国立図書館で資料収集を実施することを断念せざるをえなかったことも、計画実行の大幅な遅れに繋がった。 さらに2023年度は、健康上の理由からフランス滞在が不可能となったこともあり、十分な資料を調査できず、最終的に本研究課題の研究期間を1年間延長することを決断した。 以上に加えて、上記「研究実績の概要」でも記したように、詩的テクスト一般における「発話的審級」の区分やそれぞれの水準の規定が論者によって異なり、膨大な先行研究をあらためて読み直し、それぞれの審級の概念規定を網羅的に調査する必要が発生したことも、研究期間延長を決断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究が遅延している以上の理由を十分に考慮した上で、まず所属機関の休暇期間を利用して、フランスに滞在し、パリ国立図書館等でマラルメ関連文献の収集を実施すると同時に、必要に応じて、ジャック・ドゥーセ文学図書館でマラルメ草稿の調査を実施する。また、上記で述べたように、マラルメ後期詩篇の発話的審級における「抒情主体」の様々な関与の様態を、ポリフォニー言語理論やディアロジスム論などの見地から分析することで、後期マラルメ詩学のこれまで発見されなかった新たな側面を照射する予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度に実施する予定であった『エロディアード』草稿群(とりわけ「エロディアードの婚姻」)の考察に多大な時間を要したため、半年以上、研究課題の実施計画が遅れてしまった。また、2021年度・2022年度のコロナ禍の状況下で、パリ国立図書館での資料収集や、パリ・ジャック・ドゥーセ文学図書館でのマラルメの草稿調査を断念したことも、計画実行の大幅な遅れに繋がった。また、2023年度は、健康上の理由から資料収集と草稿調査のための渡仏を断念したため、フランス渡航費とパリ滞在費に割り当てられるはずだった金額分が、2023年度の科学研究費補助金で使用されなかった。上記の研究の進行状況を考慮し、研究期間の1年間延長を決断した。これに加えて、上記の「研究実績の概要」でも記しているように、詩的テクスト一般における「発話的審級」に関する理論的課題があらたに浮上したことも、研究期間の1年延長を申請した理由の一つに挙げられる。 次年度は、上記理由から、過去3年間実施できなかったパリ国立図書館でのマラルメ関連文献の調査とパリ・ジャック・ドゥーセ文学図書館でのマラルメ草稿調査を実施するために科学研究費補助金を使用し、さらに、「抒情主体」や「発話的審級」、ポリフォニー理論、ディアロジスム論に関する未見の書籍の購入のために科研費補助金を使用する予定である。
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