2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on Italian War POW "Concentration Camp Literature": Toward the Construction of "World History of POWs"
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21K00428
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
土肥 秀行 立命館大学, 文学部, 教授 (40334271)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 収容所文学 / トラウマ文学 / 捕虜の世界史 / 現代イタリア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、イタリアの「戦争文学」に的を絞り、作業を進めた。海外調査が無理であるため、国内を中心とした調査と文献資料収集と資料検討を集中的に行った。以前の海外調査も参考にしつつ、イタリア「戦争文学」文献総合リストと、捕囚体験を中心とした新たな資料(写真や書類)を集めたアーカイブ構築の準備の一年とした。本研究で検討する作品のうち、イタリアの叢書「大戦小説集」所収のほとんどが戦場を舞台とするのに対し、唯一、「収容所文学」として戦場の外を描いているのが、20世紀イタリア散文文学の巨塔C.E.ガッダ(1893-1973)が著した『戦争と捕囚の記』(没後1991年刊)である。有名なガッダの初期短編集『ウディネの城』Il castello di Udineの材源ともなった6冊の手帖に書き留められた士官兵捕虜としての記録が収められた一冊である。「肝心の」カポレットの戦闘についての「手帖その三」が敗走中に失われているとはいえ、戦争の記として、図らずも本書は、ドイツのラシュタットでの捕囚と帰国がメインの内容となっている。近年、ガッダの主要作(もはや世界文学の域)と並べられ、弾が飛び交わない戦争手記として類をみない書である。2021年度は、いわばエジンバラ大学のガッダ研究所(2022年9月に訪問予定)が長年行ってきたテキストクリティックの成果に基づき、研究全体の第二段階(初年度から二年度の前半まで続く)として、上記「戦争文学」の文脈において、ガッダの「手帖」がもつインパクトにせまった。そして「文学者の巣窟」であった収容所には、ガッダだけでなく、独文学者B.テッキ(1896-1968)、詩人U.ベッティ(1892-1953)や、戯曲家A.カゼッラ(1891-1957)がおり、彼らの作品もまた捕囚体験の副産物として、本研究が新たに提起するジャンル「収容所文学」の典型として、検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、年度はじめに刊行された単著Interlinee: studi comparati e oltre(『インターライン:比較文化ほか』(Firenze, Franco Cesati Editore)内の一章I prigionieri italiani in Giappone durante la Grande Guerra(「第一次世界大戦期の日本におけるイタリア人俘虜」)が他の研究者に読まれることにより、さらなる示唆を得ることができた。特にイタリア系オーストリア帝国兵捕虜について唯一の研究者といってよいジョルジョ・ミロッコ氏とは、活発な意見交換ができ、貴重な史料を参照することもできた。前衛芸術についての研究会のフィードバックである論考「未来派の宣言文を読む」(立命館言語文化研究 33(2) 1-10 2021年11月、査読有)では、一次大戦と文学のロマン派的協調関係を論じている。研究従事者にとって「トラウマ文学」の代表である短編集ベッペ・フェノーリオ『アルバの23日』の邦訳については、詳し目の書評が発表できた(『図書新聞』3519号、2021年11月13日)。研究従事者が「収容所文学」のひとつと位置付けるリリアナ・セグレ『アウシュヴィッツ生還者からあなたへ 14歳、私は生きる道を選んだ』については、分析を含む書評を寄せた(『図書新聞』3535号、2022年3月19日)。ブエノスアイレス大学主催国際シンポジウム「“渡し守”外国におけるイタリア文化受容とイメージ」での発表「パゾリーニとミシマ:没50/45年をむかえる“無理解の”存在のアクチュアリティ」(伊語発表)ではファシズム体制における戦争が及ぼす文学への影響について、文化比較を交えて論じられている。戦争非体験者へのトラウマとして注目すべきトピックであった。
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Strategy for Future Research Activity |
計画の二年目においては次の作品についてさらなる考察を加えていく。これまで検討してきた小説家ガッダの収容所体験は、直接的な戦闘はないにせよ、その後の彼の文学作品に繰り返し影響を及ぼすトラウマ性のあるものであった。トラウマ性のある体験を根とする「収容所文学」の一面を、トラウマ文学として捉え直していく。「手帖」が1965年になってはじめて公刊されたこと自体、捕囚体験から半世紀という時間的隔たりが可能にした、ある内的変化を物語っている。それを仮にトラウマからの解放への動きとする。つまり“囚われ”状態はその後も続いており、そして当時の捕囚経験の公表と、まもなくの死により、「祓い」が為されたとする見立てである。事後暫くしてからの発表=トラウマ文学との図式ができるのは、ガッダの収容所仲間であり作家となったB.テッキ(1896-1968)の捕虜収容所の記録『バラック15c』Baracca 15c(1961)もまた、ガッダ同様の隔たりがあってはじめて発表されていることに依る。イェール学派的トラウマ理論におけるバイアスのかかった記憶が「記録」としての文学であるならば、戦争時の捕囚と、その後も継続される捕囚=トラウマの関係を、記録と記憶の関係から解き起こせよう。2022年9月に予定されるエジンバラ大学での意見交換(依頼にもとづく講演も行う)に向け準備していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の行動制限により、予定していた海外調査ができなかったため、次年度使用額が0より大きくなった。翌年度分として請求した助成金と合わせ、9月にボローニャ大学とエジンバラ大学への調査と発表のための出張を計画している。
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Research Products
(5 results)