2021 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半以降のフランスにおける〈集合住宅文学〉に関する研究
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21K00431
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩塚 秀一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70333581)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 集合住宅 / ルポルタージュ / 制約 / サン=モール通り209番地 / リュト・ジルベルマン / 野生の探偵たち / ロベルト・ボラーニョ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、20世紀後半の集合住宅小説であるペレック『人生 使用法』(1978)が、その後のフィクションおよびルポルタージュ文学に及ぼした影響を考察した。チリの作家ロベルト・ボラーニョは、『人生 使用法』へのオマージュと目される代表作『野生の探偵たち』(1998)において「ペレックが始めたことを再び活性化した」と評されている。ボラーニョがペレックから受け継いだのは、集合住宅という器そのものではなく、それがもたらす構成原理、すなわち、「各々の物語が別の物語に通じており、それが今度はまた別の物語に至り、それがまた別の物語に繋がる。別のいくつもの物語に痕跡を残す物語があり、他の物語の鍵となる物語がいくつもある」という、小さな物語の絡み合いであったようだ。一方、現代のドキュメンタリー映画監督兼作家のリュト・ジルベルマンは、集合住宅をめぐるルポルタージュ文学『サン=モール通り209番地』(2020)において、従来集合住宅小説が重点を置いてきた共時的側面ではなく、通時的側面を際立たせて見せた。ある一時点における個々の住人の生活を並列するのではなく、同じ部屋に住んでいた住人をひとつの共同体に属するものとして捉える視点がうかがわれるのである。個々の住人から通時的に結ばれた共同体へ、というこのような重心の移動には、『人生 使用法』のウリポ的制約が寄与しているとも考えられる。ウリポ的仕掛けは、集合住宅内のさまざまなオブジェを個人のアイデンティティからいったん切り離し、アルゴリズムによって機械的に集合住宅全体へと結び直していると見ることもできるからである。こうして、現代の集合住宅文学の特徴であり、ジルベルマンにも認められる「個からの脱却」と、『人生 使用法』の生成原理であるウリポ的制約には関連があるとの知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度集中して取り組むつもりであった『サン=モール通り209番地』の分析が、学務や注文仕事のために、やや遅れ気味であるため。
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Strategy for Future Research Activity |
『サン=モール通り209番地』の分析については、長期休暇を利用して集中的に取り組みたい。
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