2022 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半以降のフランスにおける〈集合住宅文学〉に関する研究
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21K00431
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩塚 秀一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70333581)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 調査の文学 / ウリポ / リュト・ジルベルマン / サン=モール通り二〇九番地 / 『人生 使用法』 |
Outline of Annual Research Achievements |
言語遊戯によって名高い作家、ジョルジュ・ペレックには、それとは対極的な志向、他動詞的な現実探求の試みにおいても知られている。そして、後者はロラン・ドゥマンズの言う「調査の文学」にも多大な影響を与えており、彼は自らの著書『調査の新時代』(2019)を「ジョルジュ・ペレックのしるしの元に置かれている」と述べるほどだ。それにもかかわらず、気がかりなのはドゥマンズの例示する「調査の文学」には、ユーモアも言語的遊戯もあまり見られず、「遊戯性」に欠けているように見えることである。そこで今年度は、ウリポ文学の精華とも言うべきペレックの『人生 使用法』(1978)と同じく、集合住宅という舞台を共有する「調査の文学」の最新の成果のひとつ、リュト・ジルベルマン著、『パリ一〇区サン=モール通り二〇九番地 ある集合住宅の自伝』(2020)を取り上げ、遊戯性がどのように現れているかを考察した。この作品は、ある集合住宅をめぐるルポルタージュという意味では「調査の文学」の一例であるが、実存的制約が用いられているわけではない。『人生 使用法』と枠組みを共有してはいるが、ウリポ的な言語遊戯を共有しているわけではない。上述のペレックの二面性がいかに現れているかを調べ、この作品が、二面性をもつペレックとどのような関係にあるのかを考察した。結論として得られたのは、「集合住宅」という枠組みに埋め込まれた遊戯性の遺伝子が、『人生 使用法』とは別様に開花し、名もなき人びとの小さな物語が複雑に絡み合うルポルタージュを産み出している、という見解である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『サン=モール通り209番地』の翻訳を一通り終えた。今年度は内容の分析を深めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
『サン=モール通り209番地』の分析については、日本語訳に付す予定の「訳者あとがき」の執筆を通じて、知見を深め練り上げていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、当初予定していた現地調査ができなくなったため。今年度は、現地調査を行うつもりである。
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