2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ啓蒙主義詩学史の再記述-模倣・想像・情念の複合性をめぐる概念史として
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21K00435
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福田 覚 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (40252407)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 文学論争 / 詩学史 / ドイツ啓蒙主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
一次・二次文献の基礎的な収集という面では、新型コロナウイルスの影響で、計画していた渡独しての文献調査・資料収集ができなかったため、一次資料の電子テキストを遠隔的に入手することと、二次資料を購入することが中心となった。 理論的探究の面では、ライプツィヒとチューリッヒの間のいわゆる文学論争について、双方で想定されている時代推移の物語のせめぎ合いと捉えるかたちで、文献ベースの考察を進めた。ボードマーによるミルトンの翻訳が論争の中核的な火種となったわけだが、バロック文学の克服を考えるのか、作品の崇高さを理解できる趣味の浸透を考えるかで両者の時代観が異なっている。ミルトンの詩をバロック文学と捉えることは今では概ね肯定されるだろう。文学論争の従来の評価方法は創作における想像力の問題に直ちに収斂させることが多かったが、そうした見方は当時の互いの論争主体の自己表象とは必ずしも一致していないことが浮かび上がってきた。 こうした考察は、詩学の理論的な面で、「真実らしさ(die Wahrscheinlichkeit)」と「不思議なもの(das Wunderbare)」という二つの概念装置の考察に通底していると考えられ、その理路を辿っている。この二つの概念は情念論的な面では同化と異化の作用を表すが、同じ概念を用いていても、ゴットシェートとスイス派で内容が異なる。スイス派が、詩的絵画論から遷移して、詩学に宗教的な背景を想定しているところで、ゴットシェートは、近代的な自然学の認識論に哲学的な可能世界論を組み合わせていて、両者とも構造主義的と言える複合的な模倣説を構築していても、論理構成には違いが見られた。理神論的とは言えない宗教的空想にも詩作に取り入れる余地を与えるスイス派に対して、後の時代の宗教と文学の分化を遡及的・投影的に認めて評価しようとしたこれまでの文学史記述は、再考の余地があると考えるに到った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基礎的な資料整備の面では、上述のように、渡独しての文献調査ができなかったため、遅れがある。 理論的探究の面は、研究順序以外の大枠のところでは研究計画の見直しの必要はなく、その意味では順調だが、スイス派と違ってゴットシェートの詩学に関しては、崇高概念の系譜との交点を見極めることが課題となってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
渡独しての資料収集ができない部分は、効率は落ちるが代替の手段で補うかたちを継続するほかないと考えている。 理論面の考察の手順としては、ゴットシェートとスイス派の間の文学論争を引き続き具体的な土台とし、それについて論じる途上で「真実らしさ」と「不思議なもの」という詩学的概念の連関が両陣営でどのように異なるのか見極める。そして、その二つの概念を組み入れた個々の詩学の理論構成から、想像力の複合性の問題を考えるという流れを想定している。文学論争は1740年代の状況を浮かび上がらせるので、詩学史の検討のためには、とりわけスイス派後期の初期との違いを見なければならない。ゴットシェートの詩学に関しては、崇高概念の系譜との交点を見極める必要があるので、その部分では、崇高論の系譜をある程度先にたどっておくことになる。さらには、詩学論争の背景にある近代的な自然学の思考法と宗教的な想像世界との対比、当時の学問分化の影響といった論点をそこに重ね合わせていく予定である。
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Causes of Carryover |
渡独しての資料収集を予定していたが、コロナ禍のためその出張が見送られたことにより、使用予定の内訳を変更してもなお次年度使用額が生じることとなった。 次年度も調査旅費の使用が容易でない場合は、5年間のなかのあとの年度で使用するか、研究期間そのものを延長することも視野に入れる。
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