2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00441
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
伊藤 白 学習院大学, 文学部, 准教授 (50761574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川島 隆 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10456808)
渡會 知子 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 准教授 (10588859)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 公共圏 / ナショナリズム / ナチス / 図書館 / ドイツ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、2021年度に収集した資料の分析を進めるとともに、研究代表者がドイツに出張し、フランクフルトの図書館での調査を行った。フランクフルト市立図書館では、第二次世界大戦中及び戦後の図書館の収集指針及び図書館員の収集記録を入手し、戦中・戦後で大きく図書館の方針が転換した様子を確認することができた。また、2021年度から関係を構築しつつあったドイツ・ギーセン大学のホロコースト文学研究所を訪問し、研究所長フォイヒェルト教授と、現代の文学が公共圏に与える影響についてディスカッションを行った。21世紀になってナチス時代あるいはホロコーストを扱う文学作品は増加傾向にあり、しかもそれらはしばしばベストセラーとなって多くの人々の目にするところとなっている。その中には歴史的事実を安易に歪曲する歴史修正主義的傾向の否めない作品もある一方で、膨大な調査に基づいて執筆され、加害者を含む当時の人々の感覚を生々しく現在に伝える労作もある。それらの作品を判断する基準として、歴史検証の精緻さ、加害者・被害者の扱いなどの観点を共有することができた。 研究分担者の渡會は、ドイツにおける文芸公共圏の動向についてベルリンで調査を行った。近年ベルリンの文化政策を牽引している「ポスト移民社会」という概念に着目し、当地の文化施設の訪問および関係者へのインタビューを行った。成果の一部を、2023年6月の国際社会学会(ISA)世界大会(於メルボルン)にて発表する予定である(エントリー・審査通過済み)。同川島は、ポップカルチャーの分野で『ハイジ』の国際的な受容状況に着目することで、女性・少女・子どもによる対抗公共圏の創出という現象を追った。特に、大正から昭和初期にかけて少女雑誌というメディアが果たした役割の重要性を浮き彫りにした。 こうした知見を持ち寄り、新たに研究協力者を加える形で研究会を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の新型コロナウィルス感染拡大の影響による図書館資料の調査・収集作業の遅れは現在にも響いている。2022年度はフランクフルトで図書館での調査を始めることができたが、渡独及び外国での滞在・帰国がスムーズには行えない状況下でさまざまな制約を受けたこともあり、本格的な調査は2023年度に持ち越されている。ただし、その間に2021年度、2022年度に集めた資料の分析は着実に進められている。 一方で2022年度に実現したギーセン大学との協力及び新たな研究会の立ち上げとその中での分野横断的な議論により、理論面での研究は大きく発展した。ドイツでもナチス時代を知る人々の数が減少し、一方で移民・難民の流入によって人口構成が大きく変わったことで、ナチスの過去のドイツの公共圏での位置づけも変化せざるを得ない。さらにはロシアのウクライナ侵攻によっても、ナチスの犯罪が相対化される現象を目にする。こうした状況がある中で、現代文学におけるナチス時代というテーマの位置づけが変化してきていることは大いに推測できるとともに、また実際これまでに調査した文学作品においてそれは裏付けられている。こうしたことを踏まえ、19世紀から20世紀前半の図書館蔵書調査に加え、現代の文学作品の図書館での扱いを調査することで、当研究課題がより現代的な問題にもリンクする可能性が見えてきた。これらの点は2023年度の図書館調査において取り組みたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も引き続き、図書館目録・指針等の収集及び量的・質的分析を進めるとともに、研究分担者及びこの間に構築された協力関係者とのディスカッションを通じて読者という位相に注目した文芸公共圏モデルの確立に努める。 2023年度に研究代表者は1年間のドイツ滞在を予定しており、ギーセン大学のホロコースト文学研究所の客員研究員として調査を進める。ギーセン大学ホロコースト文学研究所では、ポピュラー作家の書いたナチス時代を扱う文学作品の朗読会・討論会など数多くの企画があるのみならず、ギムナジウムとの連携プロジェクトも実施しており、こうした作品の一般読者による受け止めを研究することが可能である。 またこの長期滞在を利用してフランクフルト、ケルン、グローセンハイン、ベルリン等での図書館調査を予定している。図書館調査においては、当初の計画どおり19世紀から20世紀前半の蔵書・指針類の調査を行う一方で、これに加えて戦後の、特に21世紀のナチス時代を扱う文学作品についても併せて調査を行い、比較検証を行う。これによってこの研究課題の現代的意義が拡大するものと考える。 また、2022年度中に、戦後~21世紀の現代ドイツ文学作品及び言説におけるナチス時代の「ふつうの人々」の描き方を、当研究課題のメンバー(図書館学、文学、社会学)、研究課題開始以前の学内の研究プロジェクトのメンバー(言語学、歴史学、哲学)及び現役の作家が集まって分野横断的に議論する研究会を立ち上げたが、現在このメンバーでの2024年度のシンポジウム開催を目指している。2023年度中にその準備会合を複数回開催し、文芸公共圏の実態を可視化するための知見を共有する予定である。
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Causes of Carryover |
22年度中に購入予定だった物品・サービスの購入及び決済が年度をまたいだため。
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