2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00441
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
伊藤 白 学習院大学, 文学部, 准教授 (50761574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川島 隆 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10456808)
渡會 知子 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 准教授 (10588859)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / ナチス時代 / ナショナリズム / 文芸公共圏 / 図書館 |
Outline of Annual Research Achievements |
本務校の長期研修制度を利用し、1年間ギーセン大学ホロコースト文学研究所の客員研究員としてドイツに滞在し、同研究所の研究チームとのディスカッションを濃密に行ったこと、またこの滞在中にフランクフルト、ベルリン、ケルンの図書館の調査を進めたことで、研究は大きく進んだ。 19世紀から20世紀前半の図書館蔵書として、1900年代~1930年代のベルリン市立図書館の目録を入手し、分析を行った。時代的な限界はありながらも、意識的にインターナショナルかつニュートラルに構築されていた同図書館の蔵書が、ナチスの政権獲得とともに急激に右傾化する様子が、データとして量的に確認できた。また、ケルンのユダヤ資料館の協力を得て、現代の文学作品の図書館での扱いを調査し、ナチス時代を扱った現代の文学作品が、倫理的に高く評価された作品も、また大きな議論を呼んだ作品もともに広く読まれていることを確認した。 ギーセン大学の研究チームの協力を得て、近年大きな議論を呼んだ作品を抽出し、その「質」の面での分析を行った。特に、ベストセラーとなり、高校卒業試験の課題となることで文芸公共圏に大きな影響を与えたアルノ・ガイガーの『龍の壁のふもとで』(2018)を分析し、日本独文学会の機関誌『ドイツ文学』に投稿して採用された。また、2024年6月に開催予定の日本独文学会春季研究発表会でシンポジウムを企画しており、アルノ・ガイガーの同作及びトーマス・ヘッチェのベストセラー作品『心の糸』(2020)、そしてラルフ・ロートマンの三部作『春に死す』『あの夏の神』『雪の下の夜』(2015~2022)を並べることで、これらの作品にナチス時代の「ふつうの人々」が「良い人」として描かれる現象とその文芸公共圏への影響を論じる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度までコロナの影響で進捗に遅れが出ていたが、2023年度が本務校の長期研修の時期に当たったため、十分な研究の時間をとることができ、研究は大いに進んだ。ギーセンの研究チームとの研究協力においては、研究所長のザーシャ・フォイヒェルト教授とのディスカッションのみならず、研究チームの研究会での議論、さらに、研究所が開催するイベントでの著名な作家・有識者との議論ができたことで、特に現代の文芸公共圏についての理解が深まった。また、2022年度に立ち上げた、言語学、歴史学、哲学、社会学及び現役の作家による、戦後~21世紀の現代ドイツ文学作品及び言説におけるナチス時代の「ふつうの人々」の描き方を分野横断的に議論するプロジェクトにおいては、合計4回の研究会を開催し、研究テーマの理論面での理解を深めることができた。 なお、この3年の研究期間に、この研究手法が20世紀前半以上に現代の文芸公共圏の分析に有効であることが見えてきたため、研究内容に若干のシフトがある。その点を加味した後継の研究課題として「現代ドイツ文学におけるホロコースト表象と公共圏の相互作用」を申請し、採択されている。 研究代表者、分担者それぞれの家庭の事情等による若干の予算執行の遅れはあるものの、研究はおおむね順調に推移したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、研究代表者、分担者の個別の事情により残った若干の予算執行を除き、2023年度で基本的に終了している。 後継の研究課題として、「現代ドイツ文学におけるホロコースト表象と公共圏の相互作用」が採択されており、質的分析、図書館調査による量的分析、そして社会システム論及び対抗公共圏の研究の観点からの理論的分析を軸とした公共圏と文学作品の相互作用を、より現代の文学作品に重点を移して実施していく予定である。 特に注目したいのは、近年のドイツで、ホロコーストの加害者であると同時に、東部戦線や空襲の「犠牲者」でもある当時の「ふつうの人々」を描く傾向が生まれており、それに伴って、ドイツ人の犠牲の強調による加害の相対化、及びそれに伴うユダヤ人の犠牲の相対化という現象が生じていることである。シリア・ウクライナ難民の大量受け入れへの反発から右傾化が指摘されるドイツにおいて、上述の傾向はさらに強まる可能性があるだろう。その一方で、ドイツ人の加害性をより繊細に描き出そうとする作品も書かれており、そういう作品が広く読まれることで、現代ドイツ文学は他者に寛容な公共圏を形成しうる。現代ドイツのベストセラー作品に描かれる加害者/被害者構造を分析するとともに、その需要傾向をドイツの図書館における蔵書・利用データを利用した量的分析によって検証することで、現代ドイツ文学と公共圏の相互作用を明らかにすることを予定している。
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Causes of Carryover |
研究代表者及び研究分担者の本務校業務及び家庭の事情による多忙のため。本課題及びその後継課題(24K03796)の枠組みで2024年6月にシンポジウムが予定されており、それに向けた準備及びその報告書の刊行のための文献収集等に使用する予定である。
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