2022 Fiscal Year Research-status Report
Noise as a scientific image in the modern mass culture
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21K00445
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
原 克 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40156477)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 騒音 / 都市文化 / サブカルチャー / 科学技術科学技術 / メディア表象 / テキスト解釈学 / 図像学 / 文化科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近代都市空間における騒音(ノイズ)に焦点をあて20世紀以降騒音ならびに騒音対策に係わる科学技術を介して、都市型住人と都市型共同体との関係の変遷を辿り、そこに潜んでいる近代的主体という幻想と人間機械論の基本問題を析出する。1920年代一方で「都市の交響楽」という肯定的言説と他方で「騒音現象」という否定的問題定立とが同時に発生して以来、近代的主体という構図が身体表象的直接性をもってこれまでになく内面化・個体化されてゆく。この社会表象的経緯を複合的に分析することで「都市型騒音現象」という具体から「近代の規範的理念」という抽象の仮構性を抽出することにより騒音と身体表象という従来にない問題設定で「近代」解明を目指す。同時に騒音表象と大衆社会に於ける近代的市民生活が、より広範な科学信仰・進歩信仰を成立させてきた表象基盤構造と根本において同期性・根幹的連動性を有することを批判的に明らかにする。 上記の枠組みに従って当該年度は以下の各都市型カルチャー現象を取りあげ(ガラス瓶・バイオリン・犯罪科学捜査・プレハブ住宅・自動車修理工場・エスカレーター・バーベキュー・物干しグッズ・カーウォッシャー・サイレン・自動販売機・搾乳機・マキナムジカ[音楽技術]等)、各項目の表象事例として小説・文学作品・映画などの表象世界をテキスト解釈ならびに図像学的分析に掛け、それを端緒に各項目の技術的変遷・社会的反響・共同体的影響などを逐次解析した。上記の各分析を連載形式で公の言論空間に総計23本出版・刊行・公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、都市空間を近代という言説の枠組みの連鎖として解読すること、つまり従来の文学・文化研究としてではなく、都市現象総体を対象とした表象分析を実施すること。更には都市文化・科学表象の分析を介して近代そのものの捉え直しのための基盤的分析スキームを提出するものであった。その結果、新聞や科学雑誌というメディアにより流布された「身体」の図像を通して、生命と死をめぐり新しい言説の枠組みが「総体的・総合的」に都市空間を覆っていく過程を、大衆社会に於ける表象の近代化という視点から分析できた。 具体的な研究成果は単著『騒音の文明史 ノイズ都市論』(東洋出版2020年 431頁)、『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(講談社2017年、381頁)、『OL誕生物語 タイピストたちの憂愁』(講談社2014年、333頁)、『白物家電の神話 モダンライフの表象文化論』(青土社2012年、274頁)、『サラリーマン誕生物語 二〇世紀モダンライフの表象文化論』(講談社 2011年、335頁)、『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化2』 (柏書房2011年、256頁)、『身体補完計画 すべてはサイボーグになる』(青土社 2010年)、『気分はサイボーグ』(角川学芸出版 2010年、232頁)、『美女と機械 健康と美の大衆文化史』(河出書房新社 2010年、254頁)、『アップルパイ神話の時代 アメリカ モダンな主婦の誕生』(岩波書店2009年、350頁)、『流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌』(紀伊國屋書店2008年、367頁)等により広範に社会に還元し、科学テクノロジーに裏打ちされた都市型生活者の日常的身振りの表象分析という新学問領域で、これまでにない独自な学問的成果を提示してきた。こうした実績と問題設定の継続性ゆえに当該年度は順調な進捗状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
尚、本研究の分析対象はドイツ・米国・日本の科学啓蒙雑誌(1900年~2010年)であるが、国内の大学図書館・研究所に於ける所蔵状況は前述したように極めて不充分なものである。しかし申請者は、ドイツ・米国・カナダ・英国の古書店とのネットワーク(計120店舗)を通じて個人的に数年来前述雑誌の発掘・収集に当たってきた。その結果、現在米国3誌に関しては創刊号から2016年3月号までのうち約9割強、日本の主要2誌に関しても完全な収集を終えており、ドイツに関しては主要3誌の収集に現在最大限努めている。こうした収集の結果、現在申請者が擁する資料は国内最大の蔵書量に達したと判定しうる。従って本研究の目的を遂げるのに必要最低限の資料は申請者の手許にある。 こうしたこれまでの収書探索の成果に加え、2022年度末から2023年度初頭に掛けて米国において実に膨大な当該古書文献が市場に登場したので、迅速にこれらを購入・収集にあたっており、次年度にむけて更なる研究の進捗・発展・深化が期待できる状態にある。
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Causes of Carryover |
2022年度末に近くなった段階で古書情報専門筋から米国の古書市場において、申請派がこれまで長年探索してきた文献が大量に出回るという貴重な情報を得たので、市場への登場・情報公開のタイミングを見定めながら購入手続き開始の時期を勘案していたところ、2022年度内に米国との国際便を使った購入が時間的に不可能になることとなり、しかも一部文献は2023年度冒頭に掛けて市場に出ることもあり、結局2023年3月から4・5月に掛けて実際の交渉・購入手続きに入ることなったため、資金の最も有効活用ならびに研究深化の観点から止むなく次年度への繰り越しをするのが最も合理的となった。この間の交渉で文献の現状は把握できているので次年度においては速やかに予算執行の目処が具体的に立っている。
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Research Products
(14 results)