2023 Fiscal Year Annual Research Report
近代ドイツにおける〈身体〉の啓蒙 ―汎愛主義体育の思想的研究―
Project/Area Number |
21K00449
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
田口 武史 福岡大学, 人文学部, 教授 (70548833)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 体育 / グーツムーツ / ヤーン / 生政治 / 身体 / パトリオティズム / ナショナリズム / 近代教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究では、グーツムーツの主著『青少年の体育』初版(1793年)から第二版(増補改訂版、1804年)の改稿において、政治的姿勢の変化が見出されないことを指摘した。彼の体育(Gymnastik)にナショナリスティックな色彩が混入する決定的契機となったのは、おそらくフランスによる祖国占領の経験である。これを検証するため、まず『青少年の体育』初版と第二版の〈軍事教練〉を扱った章を改めて比較検討した。どちらの版でも、隊列行動や陣取り合戦といった軍隊風の身体活動が紹介されているのだが、職業軍人に委託した第二版の当該箇所からは遊びの要素が一掃されている。しかし興味深いことにグーツムーツは、この厳格な指南に続けて、自らの筆で遊戯性の強い軍隊ゲームをわざわざ書き加えている。政治性が最も強く顕現するであろう〈軍事教練〉において、彼は子どもにとっての楽しみを優先したのである。さらに、『青少年の体育』と合わせて3部作を成す『遊戯書』(1796年)、『手仕事書』(1801年)においても、教育目的を踏み越えるような政治的意図がないことが確認された。 それだけに、解放戦争直後に書いた論文「祖国ドイツの友として、両親、教育者、教師は子供の教育において今、何をすべきか」(1814年)、および『祖国の子息のための体操書』(1817年)において、もっぱら祖国防衛の兵士育成を目的とする「体操術」が提唱されたことは殊更注目に値する。先行研究では、グーツムーツの純粋に教育学的な「体育」を、ヤーンが政治的に変化させたと説明することが多い。またグーツムーツ自身も全人教育たる「体育」と、戦時対応の「体操術」とは全く別物だと主張していた。しかし「体育」を「体操術」とを区別して評価するのは適当ではない。彼の構想した近代体育には〈生政治〉の志向が潜在しており、それがナショナリズムを招き入れる働きをしたからである。
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