2023 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス・ロマン主義と中世日本文芸における自我の無化に関する比較文学的研究
Project/Area Number |
21K00462
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菊池 有希 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70613751)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自我の無化 / 北村透谷 / カーライル / ゲーテ / バイロン / 芭蕉 / 西行 / 回心 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、カーライルにおける「自我の無化」’Annihilation of Self’ の思想の淵源をたずね、カーライルの言「汝のバイロンを閉じよ、汝のゲーテを開け」‘Close thy Byron; Open thy Goethe’にあらためて立ち返りつつ、カーライルとゲーテとの関わりについて検討をおこなった。その際、1768年からその翌年にかけてのゲーテにおける「回心」'Bekehrung’の体験をカーライルがどのように受容したのかという論点を中心に据え、『詩と真実』における「回心」体験の叙述の検討、カーライルも翻訳した『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の中の「美しき魂の告白」の挿話の解釈、ドイツ敬虔主義の思想史的背景の確認などをおこなった。その結果、カーライルの所謂「自我の無化」がゲーテの「回心」体験における病中の肉体の衰弱のイメージから発想されたものではないかという仮説を得ることができた。ゲーテは、カーライルにおけるバイロン的自我の超克の問題を解明するうえで最重要の存在であるのみならず、北村透谷におけるバイロンとゲーテの比較論(「マンフレッド及びフオースト(断篇)」)を読み解くうえでも看過できない存在である。現在、ゲーテ、(バイロン)、カーライル、透谷と展開する文学的・思想的系譜についての稿を準備中である。 一方で、本研究のもう一本の柱である、中世日本文芸・美学における〈自我の無化〉の意味の解明については、透谷とゆかりの深い西行と芭蕉を中心的に扱いながら検討をおこなったが、満足の行く成果を得ることができなかった。ただし、近代における芭蕉の美学化の過程と、そこにおける透谷の芭蕉の美学化の位置づけについては一定の理解が得られており、現在、〈自我の無化〉の視点からの整理をおこなっているところである。可及的速やかに論文化したいと考えている。
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