2023 Fiscal Year Annual Research Report
The Scopic Regime in Verbal Landscape: Viewpoint and Movement
Project/Area Number |
21K00464
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
野田 研一 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (60145969)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 言語風景 / 視点 / 反散文論 / 単一音調的散文 / 印刷革命 / 言語の視覚化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の主題は言語風景論である。自然を言語によっていかに記述するか。文学における風景表象の形式性と歴史性の解明を主な目的とする。形式性とは、〈視点〉を起点とする均質空間を把握しようとする遠近法的叙述形態の定型性のことであり、その様態の概略を確認すると同時に歴史的遷移の相を解明し、近代散文における〈風景〉記述様式が、歴史と〈視〉の制度に規定された様式であることの検証を行おうとするものである。 この主題の考察を進めるに従って、3年間の研究期間のうち、2年目の後半に計画段階では明確に意識していなかった新たなキー概念が浮上してきた。それが「反散文」という概念であった。これは1年目において検討を重ねてきた、グーテンベルクの印刷革命以降の問題、とりわけ活字印刷の登場による「言語の視覚化」という事態との関係から浮上してきた問題である。印刷革命以降、言語は音声から切り離され、視覚の対象、そして「沈黙の言説」へと変容していった。その末に、新たなジャンルとして登場したのが近代散文という形式であり、活字印刷面に表出される「均等分割の原理」(マクルーハン)という散文の原理が、言語風景における遠近法的叙述形態の基底部を成すことが明らかになった。 その結果、最終年度においては、言語風景論と「均等分割の原理」の交点を探る試みとして再定義を行うこととなり、その延長線上に遠近法と印刷(=散文)が重合する地点を焦点化することとなった。2年目後半と最終年度前半は、「反散文」論をコンセプトとする研究会を連続的に開催した。その上で、最終年度に論文集『耳のために書く 反散文論の試み』(水声社)を刊行した。結論的には、言語風景論は近代散文の構造と不可分であり、それもたんに類比的にとらえられるという次元ではなく、両者が遠近法と活版印刷という近代的な〈視〉の制度に深く根差しているという事態そのものであることを明らかにした。
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