2022 Fiscal Year Research-status Report
邦訳作品のアジアにおけるリンガフランカ的役割への一考察 ― 邦訳グリム童話を例に
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21K00465
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西口 拓子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00459249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 道子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20222953)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メルヒェン / 翻訳 / グローバル / アジア / グリム童話 / 受容 / 翻訳文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本における西洋文学の翻訳は、初期には英語経由で行われたケースが目立つが、韓国や台湾においては、英語ではなく日本語訳の場合が少なくなかった。しかしながら翻訳の底本を確定することは時間を要する作業であるため実証的な研究は少ない。本研究が主に調査しているグリム童話の場合、日本の明治から大正期の翻訳は、英語経由のものが多い。また大胆な変更も散見され翻案に近いものも多い。こうして原典から少し離れることによって、その特徴が翻訳文に痕跡として残る。同一の特徴が、韓国語訳や中国語訳にみられる場合には、日本語訳が翻訳底本とされたことを実証的に示すことが可能となるのである。こうした研究を積み重ねることで、アジアにおける文化的つながりの一端を示すことができる。それは現在の我々の文化交流を支える礎ともなるものであろう。初期の西洋文学の翻訳においては、韓国や台湾においてはこれまで知られている以上に日本との繋がりがあったのではないかという観点から、調査の基礎資料となるデータベースの構築を行うのが本研究の柱のひとつである。本年度は研究の一環で、グリム童話の邦訳の悉皆調査の際に、これまで知られていなかった明治期のグリム童話の邦訳を新たに発見した。平凡社の創業者でもある平中弥三郎が編集に携わった『児童新聞』(のちに『児童教育』『児童世界』と名前を変える)には、グリム、アンデルセン、ペローの童話の邦訳やアラビアンナイトの抄訳が掲載されていた。その中には本邦初訳も含まれており、この発見は研究史上においては、2015年の府川源一郎氏によるグリムとアンデルセンの童話の新発見に続くものである。『児童新聞』『児童教育』『児童世界』の巻頭言からは、読者数が徐々に拡大し、韓国や台湾でも読まれていたことが明らかである。海外からの日本語での投稿も掲載されている。これは本研究の今後の基礎資料のひとつとなるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、国際学会での発表はオンラインのものになったが、研究会等も含めてオンラインのツールを活用した。グリム童話の翻案を確認する作業に時間を要しているが、研究期間終了後に成果をまとめることが可能な時間配分で研究を進める。国立国会図書館のホームページ上で2022年5月19日より「個人向けデジタル化資料送信サービス」が開始されたため、登録を行うことにより利用者が閲覧可能な資料が飛躍的に増えた。閲覧区分の最新の状況を確認しながら、データベースの基礎となる情報の更新を続ける。 新たに発見した邦訳資料に関しては、日本語の論文にまとめた。その他にドイツ語の拙論も刊行され、日本のグリム童話翻訳研究において、英語訳がいかに重要であるかを論じた。本論では、日本におけるグリム童話の受容研究が、ドイツを中心とする世界でのグリム童話研究にとってどのような貢献の可能性があるのかということも示した。英訳グリム童話に関していえば先行研究もあるが、一世紀以上前の英訳書は現物が残っておらず、初訳の刊行年でさえ明らかでない場合もある。ところが日本でその挿絵が模倣され、刊行されている場合には、その英訳が少なくとも邦訳の刊行以前に存在していたことになる。そうして初訳の刊行年がこれまで知られていたよりも前に遡ることを本論では実証的に示した。本年度は、その他にもスイスの出版社の広報誌2022年秋号にグリム童話の邦訳に関する文章を掲載することができ、初期のグリム童話邦訳の特徴を一般の読者向けに紹介することができた。これらは本研究の推進のためにドイツや韓国の研究者らにも送付し、今後の研究に活用する。 また2022年に刊行した単著『挿絵でよみとくグリム童話』は、本研究の基礎をなすこれまでの研究論文をまとめたものだが、ドイツ・スイスの研究者に送付し評価をいただいただけでなく、第46回日本児童文学学会特別賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
オンラインで公開される資料(初期の翻訳書)は、日々拡充されている。新たに公開された資料の有無を確認する。また国立国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」も公開範囲が徐々に広げられているため、データベース向けの最新の情報を確認する必要がある。スイスの研究者からは、海外の研究者がデータベースを活用する上で補充してほしい情報の指摘を受けた。これに応じたデータの拡充を行う。本研究の目的のひとつであるデータベースは、主に日本語の読めない(ドイツ語圏や英語圏の)研究者の活用を想定していたのであるが、今日では、Googleレンズなどを用いることで、おおよその意味が分かる状況にあるため、作成予定のデータベースは想定以上に海外で活用されうると考える。 本年度も国際学会に積極的に参加することで、より多くの研究者との交流を行い、データベースに対する意見もさらに収集する。 3年目となるため、論文も積極的に発表していきたい。『児童新聞』『児童教育』『児童世界』に見つけた貴重な資料とその意義については、グリム研究者の国際的な基礎資料となるよう、ドイツ語の論文で紹介したい。主な対象が独文学関係者であるため、ドイツ語での執筆や発表が主となるが、紙幅に余裕があれば、英語の翻訳(抄訳)も付けたい。当該の明治時代の児童雑誌は、韓国や台湾の読者にも実際に読まれていたのであるから、これが同国のグリム童話受容に与えた影響の有無についても今後の課題となる。 ドイツの研究者との国際共著論文が近刊の予定であるが、公刊後にも最新の研究報告をさらに共著の形で行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度も、コロナ禍の関連で海外渡航を見合わせたため、旅費の支出がなく少々繰越すことになった。しかしながら、調査対象の書物を古書として購入が可能であったために、研究はおおよそ予定通り進めることができた。
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Research Products
(5 results)