2022 Fiscal Year Research-status Report
エミール・ゾラにおける文学と音楽の〈美学上の相互浸透〉と実作上の帰結に関する研究
Project/Area Number |
21K00469
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
林 信蔵 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20807911)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (00706301)
成田 麗奈 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (30610282)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | エミール・ゾラ / アルフレッド・ブリュノー / シャルル・グノー / 散文オペラ / オペラ共作 / 紋中紋 / 《メシドール》 / 《ジョルジュ・ダンダン》 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は以下の3点を明らかにすることを目指している。すなわち、(1)フランスの小説家エミール・ゾラが作曲家アルフレッド・ブリュノーに提示したオペラ制作のための美学の特徴、(2)ゾラのオペラ美学のブリュノーの受け止めとオペラ制作への反映、(3)ゾラのオペラ共作の経験がゾラの文学にもたらした文学的な創造性である。 2021年度の研究は、これらの考察を実行するための基礎的な資料の収集が中心となったが、2022年度の研究では、前年度の研究の成果を発展させる形で、研究代表者および研究分担者がそれぞれ研究を行なった。 研究代表者は、オペラ共作当時の象徴主義的傾向の高まりという世界文学的な文脈の中で、文学創造を音楽と関連づけることにどのような意味があったのかを明らかにした。その上で、ゾラの音楽への接近は、文学に音楽的な象徴性を付与しようとする意図と無縁ではないが、ゾラの考える音楽的象徴性とは、演劇的な理解を助けるためのもので、難解な暗示性を最大限発揮させるためのものではないことを示した。 一方、音楽学を専門とする研究分担者は、シャルル・グノーの未発表の散文オペラ《ジョルジュ・ダンダン》の序文を考察することで、ゾラとブリュノーの散文オペラを音楽史的により広い文脈の中に位置付け得るという可能性を示した。他方、ゾラ研究を専門とする研究分担者は、ゾラとブリュノーの散文オペラの代表作《メシドール》の中のバレエを「紋中紋」というコンセプトから再検討し、研究代表者の先行論を発展的に継承した論点を提示した。 以上の研究成果は、2023年1月に青山学院大学で開催されたシンポジウム「文学と音楽のポリフォニー:近現代のフランスオペラをめぐって」において口頭で報告され、その発表の概要が報告書『文学と音楽のポリフォニー:近現代のフランスオペラをめぐって』において公表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、前年度の基礎的な資料の収集を受けて、研究成果をより具体的な形にすることが求められた。青山学院大学で開催されたシンポジウム「文学と音楽のポリフォニー:近現代のフランスオペラをめぐって」において研究代表者および研究分担者が口頭の報告を行えたことは、一定の成果である。ただし、論文としての業績を2022年度中に発表することが出来なかった。 これには、研究代表者周辺のやむを得ない事情のためエフォートを十分に確保できなかったことが背景にある。また、研究代表者は、当初、2022年の夏季休暇中に予定していたフランスにおける現地調査を2023年2月に行ったが、他の研究分担者は、ウクライナ戦争およびコロナ渦による混乱を避けるために現地調査を行わなかった。こうした事情により、一次資料の収集が不足したという事実も研究業績の発表が予想よりも遅れたということと関係すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が2023年2月に行ったフランス国立図書館オペラ座館での調査において、ゾラとブリュノーの代表作であるオペラ《メシドール》の楽譜に関して、ピアノ・スコアの手書草稿、オーケストラ譜の手書草稿とは別の、実際に上演で使われた可能性がある、リハーサル番号や書き込み付きの印刷された楽譜が存在することを発見した。この楽譜の発見により、ゾラとブリュノーの共作過程をより具体的に再現することが可能となった。このような資料を研究分担者間で共有することで、各研究分担者の考察がスムーズになることが期待される。 また、2023年度はコロナ渦がひと段落することが予想され、研究分担者および研究協力者がより積極的に学会に参加し、海外における調査を行うことが可能になると期待される。これらの機会において、より積極的に業績を公表し、資料を収集することで、研究の遅れを取り戻すことが大いに期待できる。
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Causes of Carryover |
2022年度は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大の余波が未だ完全には解消されず、さらにウクライナ戦争による国際情勢の悪化も背景にあり、予定されていたフランスにおける現地調査は、研究代表者は実施したものの、研究分担者は実施しなかった。これにより相当な金額が執行されなかった。また、2022度は、学会やシンポジウムがオンラインで開催されることも多く、国内の出張費の多くは執行されなかった。これも一定程度の金額になると見積もることができる。 2023年度は、ウクライナ戦争の先行きは未だ不透明であるものの、新型コロナ・ウィルスの感染拡大に伴う混乱は一応収束する可能性が高い。それゆえに、研究代表者及び研究分担者は積極的に対面開催の学会等に出張ができる上に、海外での現地調査も可能となる。これらの出張・調査によって前年度の未消化分の予算を執行することになる。
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Remarks |
これらの業績は、青山学院大学で開催されたシンポジウム「文学と音楽のポリフォニー:近現代のフランスオペラをめぐって」の報告書に収載された口頭発表の要約集の一部である。
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Research Products
(6 results)
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[Remarks] 「日仏・ポスト自然主義文学とオペラ美学との相関関係」
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[Remarks] 「シャルル・グノーの散文オペラ論:《ジョルジュ・ダンダン》への序文を中心に」
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[Remarks] 「エミール・ゾラの《メシドール》におけるバレエ」