2021 Fiscal Year Research-status Report
An Archive and Linguistic Study of Oral Culture in Pingjiang, China
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21K00476
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
張 盛開 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00631821)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 平江 / 臨湘 / 夜歌 / 押韻 / 口承文化 / 伝統 / 創作 |
Outline of Annual Research Achievements |
R3年度は下記の通り研究を進めた。まず4-6月は全国各地の夜歌に関する文献を収集、読み比べ、各地の夜歌の全貌が窺えた。 7-8月は湖南省平江地方の夜歌動画(240分間)と湖南省臨湘地方の夜歌音声(20分間)の文字化を行った。 9月は平江地方で入手した夜歌の歌詞本の歌詞の入力と分析を行った。その結果、夜歌歌詞の押韻ルールが判明した。 10月-12月は歌詞本の歌詞と実際に歌われた夜歌の歌詞と比べ、その内容及び言語(語彙、押韻など)的特徴を明らかにした。SNSを通して夜歌師(歌い手)に直接調査をし、明らかにできた両地方の夜歌の相違は次の通りである。まず、平江は二人で交代して歌う、臨湘は独唱が主である。次に、平江夜歌は即興で創作するものがある。臨湘は伝統的なものしか歌わない。したがって、平江夜歌の歌詞は口語も多く入るが、臨湘夜歌の歌詞は書面語のみである。次に、平江夜歌は伴奏なしであるが、臨湘は伴奏が必須である。最後に平江夜歌は七字四句で、二句ずつ押韻し、声調による押韻ルール(前の二句は仄声韻で、後の二句は平声韻)がある。臨湘でも七字であるが、声調に限定した押韻や二句ずつ押韻するという規則はない。途中韻を変えることもあるが、同じ韻を最後まで使うこともある。 1月-3月は夜歌についての研究結果をまとめ、第17回漢語方言研究会にて報告を行った。本研究は実際の歌い手によって歌われ、研究代表者が文字に転写した歌詞を「夜歌本」(約6万字)に載っている歌詞とを比べてみた。その結果、インタビューでは歌い手たちが口頭で説明していた「初めの二句は仄声韻、後の二句は平声韻」というルールを歌うときに実際に厳密に守っている。歌詞本における押韻はそれほど厳密なものでもない。歌詞本に見られるのは代々伝わってきた伝統的なものしかない。本研究は話し言葉が多く使われる創作夜歌を紹介するものとしては初めてである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に童謡のデータ収集と夜歌(葬歌)の研究を行った。童謡のデータは各地の音声付き童謡データ(140個)を収集した。昨年度に投稿した童謡の論文を校正し、刊行となった。 歌詞本から電子化した歌詞データは約2万字、音声から文字に転写した歌詞データ約2万字である。本研究での分析資料はすべてこれまで本人がフィールドワークにて収集したものである。コロナウィルスで海外出張でフィールドワークに行けない中で、手元の資料の整理と分析に専念できた。平江夜歌に関しては、一つの葬礼(240分間、4人の男性歌い手による)のものが主であるが、即興で創作されたものが別に少しある。(二人の歌い手、男性一人、女性一人)。それ以外に、歌詞本に載っている歌詞、すなわち書面資料もある。臨湘夜歌は一人の歌い手によるものである。これは「響應プロジェクト」の臨湘桃林鎮にて方言資料を収集する時に採録したものである。これらの資料を基に、実際の葬式における夜歌と歌詞本で見られる夜歌、伝統的なものと即興で創作したもの、平江地方と臨湘地方の夜歌について、比較対照を行った。その結果、それぞれの特徴がはっきりと見えてきた。文字化したデータで動画の字幕を付け、公開したので、一般の方にも湖南の地方口承文化を楽しむことができるようにした。 本研究課題は地方口承文化の夜歌、童謡、歌謡、地方劇、影劇、蓮花落などを5年間で研究や保存を行う予定のものであり、令和3年度はそのうちの二つ夜歌、童謡についてデータ収集や研究を行い、論文1篇完成し、学会発表を一回行ったので、予定通りに進行できていると考え、進捗状況を概ね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
R4年度は夜歌の論文を作成し、学術誌に投稿する予定である。それから引き続き手持ちのデータの整理と分析を行う。平江以外の地方の資料として、手元にあるのは臨湘地方の音声データ(約300分間)であるが、地元の方の力を借りてその文字化を行う。湘地方の歌詞本も5冊持っているので、そのデータベース化を加速する。 海外出張でフィールドワークに行けるようになったら、平江地方口承文化に関する映像、音声、書面データを現地で収集したい。平江以外の地方についても現地にいって、資料収集や詳しい研究を行いたい。夜歌師や一般人へのインタビューやアンケート調査も行い、各地の夜歌の現状を調べる。 全体的な研究としては、平江口承文化における押韻状況を調べたい。主に童謡、夜歌、歌謡、蓮花落などにおける方言の資料も方言の口語と比べ、その傾向を明らかにする。地方口承文化が衰退されつつある状況の中で、各地の口承文化について調査し、その現状を究明する。 R4年度は「地方口承文化にみられる言語や文化的特徴」をテーマに中国各地の口承文化に関する国際シンポジウムを開催したい。コロナウィルスで対面が厳しい場合、オンラインで開催する。 今後は継続的に口承文化に関するデータの収集を行い、各地のジャンル別の口承文化と比べてその言語及び文化的面からの相違を明らかにする。さらに、各地の口承文化に対する研究を通して、方言と文化、方言と文化の伝播、方言と文化の関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスで海外出張で現地調査を実施できなかったため、旅費の消費が次年度となった。
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