2021 Fiscal Year Research-status Report
広東語、台湾語、北京語の極性疑問文の類型論的考察~正反疑問文の機能に着目して
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21K00505
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
飯田 真紀 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (50401427)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 広東語 / 台湾語 / ビン南語 / 北京語 / 極性疑問文 / 正反疑問文 / 類型論 / 文末助詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
漢語(中国語)では極性疑問文(yes-no疑問文)の構成の仕方は方言ごとに様々であるが、ほとんどの方言に存在するのが肯定命題と否定命題を並置する正反疑問文(A-not-A question)で、これは言語類型論的に見て、漢語や漢語の影響が強い周辺言語に偏在する。漢語方言ではほかにも疑問文末助詞を用いた極性疑問文、疑問副詞を用いた極性疑問文があり、これらと正反疑問文との併用の有無や役割分担は方言によって異なる。本研究は、極性疑問文の使用パターンが大きく異なる代表方言として北京語、広東語、台湾語(ビン南語)を取り上げ、これら3方言の極性疑問文の意味・語用論的特徴を、特に正反疑問文との相違に留意しつつ分析することで、疑問文という人類言語が普遍的に持つ文法範疇への理解の深化を目指す。 本年度は、まず、台湾語の疑問副詞“敢”を用いた極性疑問文(敢-P)の機能拡張を取り上げた。本研究 では、元来、反語文「まさか~ではあるまい」を構成する副詞“敢”が中立の極性疑問文“敢-P”を構成するようになる機能拡張過程の重要な中間段階として、成立を信じない命題について成立可否を問う<不信疑問>「まさかPなのか?」を位置付けた。そして<反語文>から<不信疑問>へ、またはその逆向きという、先行研究で指摘される双方向の機能拡張が方言横断的に見られることを、広東語の(非中立)極性疑問文である、文末助詞me1を用いた疑問文を取り上げ例証した。 そのほか、広東語において、疑問文(INT)が“唔知”「知らない」の補文節に現れる“唔知+INT+ne1”(ne1は文末助詞)が自問的な疑問文として構文化しており、それを由来にさらに語彙化により談話標識“唔知ne1”が形成されたことを論じた。また、「知らない+疑問補文節」という構造が自問的な疑問構文の発生へとつながることが、言語横断的・漢語方言横断的に見られることも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も引き続き新型コロナウイルス感染症拡大による影響はあったものの、コロナ禍も既に2年目に入り、限られた範囲の中で相応の対策を講じつつ研究を遂行することができた。研究文献資料や映像資料は、コロナ禍で世界的にデジタル化が進行したためか、以前よりもはるかに多くのものが電子版で手に入れることが可能になった。また、母語話者に対する聞き取り調査も、ビデオ通話アプリで行うとともに、対面でもわずかながら行うことができた。また、国際学会や国際シンポジウムでの中間成果報告も全てオンラインで滞りなく行うことができ、海外の研究者からも遠隔で適切なフィードバックが得られたことで、論文執筆へとつなげられた。 それとともに、当研究課題について、「「基盤研究(C)」における独立基盤形成支援(試行)」の対象となったことで研究基盤整備の追加支援が受けられ、研究の進展に寄与した。その支援により、学内研究者や学外研究者、海外研究者を巻き込んだワークショップ及び研究会を各1度ずつオンラインで主催し、研究ネットワークの構築に努めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の影響が引き続き見込まれるため、今後もしばらくは国内出張及び海外出張は困難が予測される。前年度と同様、資料収集、言語調査、中間成果報告(口頭発表)において、デジタル研究資料の活用、遠隔調査の実施をはかるとともに、状況を見ながらなるべく対面での聞き取り調査を増やす努力をし、現地調査の再開を模索する。 考察内容に関しては、初年度に得られた初歩的成果や新たな問題意識を踏まえ、まずは引き続き台湾語の極性疑問文“敢-P”について、正反疑問型極性疑問文との相違を明確にしながら考察を進める。それとともに、広東語における正反疑問文型の極性疑問文の修辞疑問(反語)的用法について調査を開始したい。 考察の結果は中間報告として口頭発表する。次年度も香港・広州など広東語圏や台湾の研究者とオンラインで研究集会を開くことを考えたい。口頭発表でフィードバックを得たのちには論文にまとめて成果公開する。
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Causes of Carryover |
今年度も新型コロナウイルス感染拡大により、予定していた資料調査、成果報告・学術討議のための出張(国内・国外とも)ができなかったため、旅費を使用できなかった。また、対面での母語話者聞き取り調査が十分行えなかったため、謝金の使用も抑えられた。 次年度も旅費使用は抑えられることが見込まれるが、母語話者への聞き取り調査は、状況を見ながら対面で模索する。対面がかなわない場合にオンラインで実施する 。それにより、母語話者への調査協力謝礼の支払いを滞りなく行う。また、広東語及び台湾語コーパス構築用図書は、数は多くはないが、電子媒体で発行されているものを探して購入・使用し、コーパス調査に使用できるようデータ化する。これらの作業に当たる研究補助者に支払う謝金も順調に使用する。
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