2023 Fiscal Year Research-status Report
An investigation of Datong dialects of Chinese spoken in the Mongolian-inhabited area
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21K00515
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川澄 哲也 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (30590252)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 言語接触 / カラホト文書 / 漢児言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、元代におけるモンゴル語と漢語の言語接触状況を反映していると考えられる史料の1つ「カラホト文書」の研究に重点を置き、その資料収集および言語学的研究を進めた。カラホトは西夏によって築かれたオアシス都市で、交通の要衝に位置するため、軍事・商業の両面で重要な地位を占めた。その状況は元代も変わらず、当地には亦集乃(エチナ)路総管府が置かれた。20世紀以降、カラホトからは夥しい量の文献が出土し、そのうち1983、84年に内モンゴル自治区文物考古研究所の主導で行われた発掘調査では、約3000点の元代漢文文献が発見された。1991年にその一部が公刊され、歴史学の分野を中心に盛んに研究が進められてきたが、言語面に関する研究はほとんど行われなかった。2008年に上記発掘時に出土した漢文文献を集成した『中国藏黒水城漢文文献』(国家図書館出版社)が公表され、資料閲覧の利便性が格段に上がったため、中国語学の分野でもカラホト文書に基づく研究が行われるようになってきた。本研究はその一環を為すものである。 2023年度の研究では、カラホト出土の漢語私信を資料とし、元代白話研究に新たな知見を提供することを目指した。考察の結果、これら私信には、『(旧本)老乞大』等に見られる、所謂「漢児言語」と共通する文法特徴が一定程度含まれていることが明らかとなった。(より具体的な内容については、2024年11月に論文として公表する予定があるので、そちらを参照されたい)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
諸般の事情により、本来2023年度までに行う予定にしていた中国青海省大通県北部(宝庫郷)での言語調査が実施できておらず、この点については研究が遅れていると言わざるを得ない。但し、本課題の計画段階では実施する予定のなかった、カラホト出土の元代漢語文献を調査・考察する機会が得られ、本課題に関わるいくつかの重要な知見を見出すことができた。これらを考慮し、全体としては「やや遅れている」程度であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、実地調査による言語データの収集を行い、接触に起因する言語変容原理の解明を進めることを目指す。実地調査に赴かない時期(、或いは実地調査に赴けない場合)は、2023年度に引き続き、カラホト出土元代漢文文献の調査研究を進める。2023年度に扱った私信類以外にも白話体で記された文書は散見されるため、それらを抽出した上でその言語特徴の分析を進める。
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Causes of Carryover |
計画で支出の大半を占めていた「旅費」が、渡航不可によって残余した。その大部分については「カラホト文書」の研究文献の網羅的収集に回したが、若干の残額が生じた。これについては2024年度の実地/文献調査に係る費用として利用する。
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