2021 Fiscal Year Research-status Report
Studies of Coptic Vowels in Historical Phonology of Egyptian Language
Project/Area Number |
21K00537
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮川 創 京都大学, 文学研究科, 助教 (40887345)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | コプト語 / エジプト語史 / 音韻論 / 歴史言語学 / デジタル・ヒューマニティーズ / コーパス / 古代エジプト語 / 言語変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
コプト語の母音の音価、すなわち推定発音は、まだ完全に解明されていません。特に、エータとオメガの文字が長母音を表すのか、それぞれエプシロンとオミクロンよりも口の開きが狭い母音を表すのか、という論点が1点目、そして同じ母音字が2回繰り返される母音字重複が母音+声門閉鎖音を表すのか、長母音を表すのか、という論点が2点目です。 本年度は、これらのコプト語音韻論の諸問題について、4-5世紀にコプト語母語話者として、コプト語で最も数多くの著作を残した、白修道院院長のシェヌーテの書簡を中心に分析を行いました。本年度分析したコーパスは、『第6カノン』というシェヌーテの書簡の集成、及びその弟子のベーサによる書簡と説教文です。書簡はほとんどが修道生活についての、特定の修道僧や修道女への指導や訓戒であり、説教文はどちらかというと、一般信徒へのものです。これらの文献の写本は、ページの塊毎に欧米やエジプトの様々な図書館や博物館に散り散りになって所蔵されています。宮川は、これらの散逸した写本の諸ページを現地で写真を撮ったり、マイクロフィルムを読み取って繋ぎ合わせ、翻刻しました。一部は宮川が同大学と開発しているOCRなどの技術を用いて自動翻刻を行った部分もあります。しかし、最終的には写本と突き合わせて全てのテキストを目視で確認・修正し、Virtual Manuscript Roomという翻刻ソフトウェアを用いて、デジタル・ヒューマニティーズのテキスト・マークアップの世界標準であるTEI XML形式で翻刻データを出力しました。 こうして、シェヌーテの書簡をデジタル・テキスト・コーパス化して、計量的に分析できるようにしました。翻刻した部分は全て英訳、一部独訳を行いました。その上で、このTEI XML形式のデジタル・テキスト・コーパス中で母音字重複と語中改行の関係や母音字の出現条件・頻度について分析を行いました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゲッティンゲン大学との共同研究によるコプト語コーパスの構築も順調に進んでおり、それを用いた母音組織の分析も進んでいる。特に本年度は語中改行位置による母音字重複の分析が進み、京都大学言語学懇話会で成果報告を行った。 また、カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校の22nd St. Shenouda-UCLA Conference of Coptic Studiesという国際学会で成果発表を行ったほか、"Ancient India meets Data-Science" The 2nd and Concluding Workshop of SPIRITS Project "Chronological and Geographical Features of Ancient Indian Literature Explored by Data-Driven Science"という国際学会、および、日本歴史言語学会大会など国内外の多数の学会・研究会で研究発表を行った。 科研費「研究活動スタート支援」の古ヌビア語の母音組織の研究は、古ヌビア語はコプト文字の母音字を用いているため、本基盤研究(C)と密接に関わっている。こちらのプロジェクトの成果はJapanese Association for Digital Humanitiesで発表し、プロシーディングズ論文に載ったほか、日本オリエント学会第63回年次大会で発表した。 また、本年度は、研究成果について5本の論文が掲載されたほか、3本が掲載予定の状態である。 今後は、まだ入手できていないコプト語写本文献の翻刻を取りに、欧州・米国・エジプトの図書館・博物館を巡る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、アラビア文字で書かれたコプト語、コプト文字で書かれたアラビア語文献をよく観察し、アラビア文字の長母音表記でコプト語の単語がどのように書かれているか、コプト文字の母音表記でアラビア語の短母音・長母音がどのように書かれているかを分析する。 また、ヤロスラフ・チェルニーのCoptic Etymological Dictionaryをデータベース化する。このデータベースに基づいて、コプト語以前のエジプト語のアレフとアインとヨッドに対応したコプト語の母音字のデータを抽出し、コプト語の語彙の母音字重複がコプト語以前のエジプト語のアレフ、アイン、ヨッドに対応する割合を分析する。 そのほか、今後は宮川が科学研究費・研究活動スタート支援「古ヌビア語の母音組織と母音字重複の音価の研究」(20K21975)で行っている、古ヌビア語の母音字重複の音価の研究の成果も取り入れる。古ヌビア語は、コプト文字に3種類のメロエ文字を追加したヌビア文字で書かれ、母音字は全てコプト文字と同じであり、母音字重複がある。また現代ヌビア諸語の研究から、古ヌビア語にも長母音が存在したことが解明されている。そのため、古ヌビア語資料において母音字重複と長母音の関係性が明らかになれば、コプト語の母音字重複の音価の解明への傍証となりうる。
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Causes of Carryover |
2021年に開催予定で、宮川の研究発表が採択されていたブリュッセルでの国際コプト学会が2022年に延期されたため。
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[Book] 古代エジプト人名事典2022
Author(s)
マイケル・ライス(原著), 大城 道則(監訳), 石田真衣, 坂本翼, 橋本幸実, 波部雄一郎, 宮川創, 山下真理亜 (訳)
Total Pages
54
Publisher
柊風舎
ISBN
486498090X
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