2021 Fiscal Year Research-status Report
鮎川哲也作品に見る,1940年代から1990年代までの日本語の動態
Project/Area Number |
21K00555
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
岡田 祥平 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20452401)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 鮎川哲也 / ピジン / 役割語 / 西村京太郎 / ろう者 / 山村美紗 / 「内地人」 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度となる令和3年度は,鮎川哲也のデビュー作で,旧満洲地域を舞台にした『ペトロフ事件』の「初期バージョン」に観察される「日中ピジン」の用例に関する論考をまとめた(岡田祥平「鮎川哲也『ペトロフ事件』の初期バージョンに見られる、旧満洲地域における「日中ピジン」」『早稲田大学日本語学会設立60周年記念論文集 第2冊』ひつじ書房)。 この論考で紹介した「日中ピジン」の用例は,「日中ピジン」に関するこれまでの先行研究では紹介されていない。また,現在,販売されているバージョンの『ペトロフ事件』には存在しないものである。それゆえ,この論考で当該用例を紹介できたことは,「日中ピジン」研究や「中国人」を表象する役割語の研究においても,一定の価値があるのではないかと考える。 一方,当該年度も新型コロナウイルス感染症の影響により,当初予定していた,国会図書館などに赴いての調査が十分に行えなかった。そこで,本研究に関連して,勤務地を離れない形でも行える調査を行った。具体的には,鮎川哲也と同じ推理作家である西村京太郎の作品と,山村美紗が少女時代に書いた綴方などを資料に,1940年代から1990年代までの日本語使用社会の動態を素描することを試みた。その概要は以下の通りである。 ・西村京太郎が異なる時代(1960年と1990年代)にろう者を描いた2作品におけるろう者の描かれ方を整理し,日本語使用社会がろう者の存在をどのようにとらえてきたのかを考察した。 ・少女時代を戦前の朝鮮半島で過ごした山村美紗が少女時代に書いた綴方の中には,「内地人」が日本語の中に「朝鮮語」を交えて発話している用例を見出せる。この用例を出発点として,種々の言語資料を用い,戦前の朝鮮半島にいた「内地人」が使用していた日本語の中に見られる「朝鮮語」の例を整理した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鮎川哲也作品に加え,研究計画時には想定していなかったものの,鮎川と同じ推理作家である西村京太郎の作品や,山村美紗が少女時代に書いた綴方などを資料とし,1940年代から1990年代の日本語,あるいは日本語使用社会の動態について,先行研究では指摘されていなかった側面から,素描,整理ができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の申請時には,非常に多種多様の「ことば」に関する記述が観察される鮎川哲也の作品を中心に考察する予定だったが,当該年度に遂行した調査の結果により,鮎川以外の推理作家の作品にも,本研究に関連した記述があることが判明した。今後は,鮎川作品を中心として,従来の研究では参照されることがなかった他の(推理)作家の作品も視野に入れ,1940年代から1990年代の日本語,あるいは日本語使用社会の動態の一端を素描,整理していきたい。従来の研究では参照されることがなかった作家の作品に注目することにより,これまで看過されていた日本語,あるいは日本語使用社会の動態を素描,整理できるのではないかと考えている。
|
Causes of Carryover |
本年度に予定していた国会図書館などに赴いての調査が,新型コロナウイルス感染症の影響などにより実施できなかった。次年度は,新型コロナウイルス感染症の状況にもよるが,本年度に実施できなかった調査などを行い,国会図書館などにしか所蔵していない資料を利用した,より精緻な調査結果に基づく整理を実施したい。
|
Research Products
(3 results)