2023 Fiscal Year Research-status Report
明治大正時代の実態を通して見た日本漢字音史に関する研究
Project/Area Number |
21K00557
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石山 裕慈 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70552884)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 日本漢字音 / 近代 / 呉音 / 漢音 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治・大正時代に刊行された外国語辞典の中から数点を選び、見出し語として立項されている漢語の字音を悉皆調査することによって、近代の日本漢字音がどのような歴史的変化を遂げたか、またその背景にはどのような力学が働いていたと考えられるかを解明することを試みるものである。日本漢語は量が膨大であることから、従来は調査対象の漢語を選定し、現代語との異同を探る方法が一般的だった。本研究では、辞書に現れる全ての漢語を調査していることから、個々の漢語での用法のみならず、全体的な動向を追うことができるという特長がある。 5年度に行った事柄として、まず1904年に刊行された『和仏小辞典』について、字音語を網羅したデータベースを完成させるとともに、『和英語林集成』第3版(1886年)と比較を行った(紀要論文として発表)。すでに昨年度考察を行っていた『和英語林集成』のあり方を相対化することができた。 次に、1925年に刊行された『和葡辞典』について、アルバイトの学生に依頼して全例のデータを得た。暫定版のデータを分析して先述『和仏小辞典』『和英語林集成』と比較し、40年間の動向を探った(12月のシンポジウムで報告)。また、昨年度完成させた『和英語林集成』第3版のデータを加工・成形し、「資料横断的な漢字音・漢語音データベース」(DHSJR)に提供する形で公開した。 最後に、完成のめどは立っていないものの、参考資料として『漢英対照いろは辞典』(1888年)、『(井上)新訳和英辞典』(1911年)、『武信和英大辞典』(1918年)のデータベースも作成中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度は勤務先の文学部教務委員を担当したことにより、校務に関わる時間が長くなり十分な研究時間を確保することができなかった。 前年度にすでに感じていた事柄として、本研究ではデータ整備に案外時間を要するということがあった。データ入力自体は学生アルバイトに依頼することにより省力化できるものの、原本との照合と入力者による差を平準化するという作業は研究代表者にしかできず、研究全体のボトルネックになった。 その結果、研究開始当初想定していたような、大量の資料を分析できる状態には至っていないが、小型の辞書でも1点につき数万点のデータが得られ、そこから様々な切り口で考察できることが分かった。まずは利用できるデータを分析し、判明した事柄を報告したところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
教務委員の任期は5年度限りであり、6年度にはある程度研究時間が確保できる見込みがあること、また今後の作業に要する時間とそこから得られる成果などの見通しが立ったことから、研究期間を1年延長することにした。 当初計画では様々な外国語辞書のデータを得ることを構想していたが、データを完成させるには時間も費用もかかることが分かったため、現実的な完成を目指すことにする。具体的には、まず生データができており、すでに一部の分析も行った『和葡辞典』について、データを完成させ、「資料横断的な漢字音・漢語音データベース」(DHSJR)に提供して一般に公開する計画である。また、昨年度完成させた『和仏小辞典』についてもデータを成形し、同じくDHSJRに載せることを目指している。 次に、作成した『和葡辞典』の漢字音のデータを分析して『和英語林集成』『和仏小辞典』との比較研究を行う。本研究のまとめとして、論文や学会発表の形で公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
本研究では、資料調査のための旅費を計上していたものの、近年急速に資料のデジタルデータ化が進んだことにより、実地に調査する必要性が小さくなっている。原資料を安価で調達できたこともあり、その分の予算が浮くことになった。また、人件費として計算していた時間のうち一定量は、報告者自らが行う必要がある事柄であることが判明し、その分の未消化額も発生した。 6年度は研究最終年度となるため、研究成果を論文や学会発表の形で公表する機会が増える。発表するための旅費や、あるいは論文を執筆する上で必要となる書籍の購入などに充てる計画である。
|
Research Products
(3 results)