2021 Fiscal Year Research-status Report
『色葉字類抄』を中心とする字類抄系諸本の見出しと注文についての研究
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21K00559
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
村井 宏栄 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (40610770)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 『色葉字類抄』 / 日本語辞書史 / イロハ引き / 注記 / 見出し |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は中世イロハ引き日本語辞書文献を対象に、見出し項目と注文内項目の出入り現象を分析することで、12~15世紀の日本語辞書構造と、かかる構造を保証する日本語書記体系の特質を明らかにしようとするものである。具体的には、最古のイロハ引き日本語辞書である『色葉字類抄』を中心とした字類抄系諸本を取り上げ、従来の辞書史研究では等閑に付されてきた、諸本の展開における見出し項目の統合化・注記化現象を全数的に調査・考察していくことを目的としている。かかる研究目標の下、計画初年度の令和3年度には、以下の研究活動を行った。 まず、前年度にサンプル調査の結果報告として行っていた二巻本『色葉字類抄』と三巻本『色葉字類抄』の項目格納の実態について全数調査及び再度の用例検証を行い、用例数の精査と個別事例研究の集積を行った。得られた用例については非辞書資料による文脈での用法確認作業を通して、辞書見出しとしての性質を見定めていきつつある。前年度は作業未着手であった、三巻本『色葉字類抄』のうちの前田家本欠落部分については、江戸中期書写の黒川本によって補うことで三巻本全体と二巻本とを全体的に比較することが可能となった。 また、イロハ引き辞書が編纂・利用された時期の書記実態解明という目的のため、重点(例「コヽロ」における「ヽ」)と文章表記における漢字文節―仮名文節の比率の問題に注目し、漢字片仮名交じり文で記された観智院本『三宝絵詞』の重点用法についてそれらの概要を示した(「観智院本『三宝絵詞』における重点(ヽ)」『言語と表現-研究論集-』19)。 さらに、中近世の語彙の反映という意味で本研究の知見を反映したかたちで『源平盛衰記』の注釈活動を継続して行った(「『源平盛衰記』全釈(一七―巻六―1)」(『名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇』58-2)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、当初の予定では三巻本『色葉字類抄』と二巻本『色葉字類抄』の見出し項目について、注記として項目格納となっている用例の全数を確定させて分析し終えることが目標であったが、書写における文字の大きさ・位置の不完全な統一や筆写字体の確定に想像以上に時間を割くこととなり、作業と論点の整理をし終えることができなかった。今後は作業ペースを上げつつ、予定よりも遅れている部分の調査を完了させていきたい。ただし、綿密に諸用例を観察していったことで、『和名類聚抄』を始めとする他文献との比較検討を行うことで、今後明らかにしていくべき課題をあぶり出すことはできた。その意味において、基盤的な枠組みへの自覚的整理の進捗と位置付け得る。 令和3年度中の発表論文は2本に留まったが、うち1本は、三巻本『色葉字類抄』成立と同時期の中世漢字片仮名交じり文献の書記実態として分析を行い得た(「観智院本『三宝絵詞』における重点(ヽ)」)。イロハ引き辞書が成立する背景となる、書記史上の実態解明・基礎データの充実という意味において有意義であったと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、字類抄系諸本の見出し―注記項目の対比作業を効率化して進めていくとともに、その分析を前進させる。令和4年度は特に字類抄系諸本以外にも後の時代のイロハ引き辞書の辞書史上の展開という観点から、可能な限り他辞書についても諸本ごとの見出し項目と注記項目との関係について注意して観察を進めていく。成果は学会・研究会等で口頭発表を行い、速やかに論文化に取り組む。口頭発表の場における質疑応答はもとより、他の研究者との研究交流や意見交換などによっても議論を深め、研究計画を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響で申請時に予算として計上していた旅費の使用額がなくなり、次年度使用額が生じた。本研究は古辞書の見出し項目と注記項目の対比作業を行うものであり、遂行のためには日本古辞書の影印や画像データの閲覧が不可欠である。翻刻資料や論文を収録する研究書に比べて価格帯も高価なものが多いので、必要度の高いものからその購入費用として充当していく予定である。
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Research Products
(2 results)