2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Cyclic Transfer and Reintegration of Semantic and Phonological/Morphological Representations
Project/Area Number |
21K00575
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
前澤 大樹 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (60537116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 循環的転送 / 再統合 / ラベル付け / 二重ヲ格制約 / 標的/題材制限 / 目的語転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が最終目標とする、(i)後転送組立(post-transfer assembly)は存在するか、(ii)転送はどのような形で適用され如何に制約されているのか、という2つの問題の解決に向けて、特に(i)の解明を推し進めるべく関連現象の探求を行い、具体的分析を与える中で、(ii)に言う制約の中でも特にラベルとの相互作用から生じる制限についても進捗を図った。扱った現象は、(iii)英語の心理述語に見られる「標的/題材制限」、(iv)日本語の二重ヲ格制約、(v)スカンディナヴィア諸語の目的語転移で、これらに取り組むこととなったのは、(i)を明らかにする実際的方策として、後転送組立を仮定することによって存在が予測される現象を特定の構文の形成(正の効果)と阻止(負の効果)に区分した上で、該当すると考えられるものを探索・検討した結果である。(iii)で着目したのは、(vi)転送は自由に適用可能であり、(vii)ラベルはインタフェイスへの写像においてのみ必要であるという本研究の作業仮説の下で予測される阻止効果で、計算の効率性の観点からラベル決定可能性を最小化し、選択がラベルを介して行われると仮定した上で、語根のみがラベル決定法への可視性を担保する素性(κ素性)を担って派生に導入され、それを選択に際して随意に転送する操作を提案することで、当該の制約が導出されることを示した。(iv)では、深層二重ヲ格制約が、後転送組立の採用のより直接的な帰結として導かれることを示すとともに、形態的基盤を欠くκ素性を認めない体系の構築を目指したが、格素性による代案はより多くの仮定に基づく複雑な機序を必要とすることが明らかとなり、支持されないとの結論が得られた。同様に、ラベルの観点からの説明可能と予測される(v)の挙動は、(vii)の範囲を超えてラベルが必要と仮定することで説明されることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定とは異なる方向からの接近を図ることとなったが、全体的には概ね想定した程度の進捗が得られている。研究計画では前項に言う後転送組立の正の効果と考えられるtough構文の分析から着手するつもりであったが、同操作の詳細な挙動の解明を目的とした負の効果の検討が予想を超えて進展したため、関連構文の分析の完成と転送とラベル付けの相互作用の詳細な解明に先んじて取り組む結果となった。結果として、前項(ii)の解決に於いては大きく前進することとなった一方、懸案であるtough構文の分析の完成については計画より遅れている。とは言え、転送及び後転送組立の機序の精緻化は、今後tough構文を本格的に扱う上でも資するところが大きく、検討の順序が変わったに過ぎないと捉えらることができよう。しかしながら、先行している(ii)の解明も未だ完全な達成には至っていない。とりわけ、κ素性の仮定が伴う概念的問題を如何にして克服するか、本研究の想定の下では望ましい前項(vii)の作業仮説を維持できるかという点には最終的な結論が出ておらず、tough構文を含めたより広範な現象の検討を通して引き続き解決に努める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本来の予定とは異なるが、既に着手しているもののうち先ずは、研究目標の達成に大きく寄与すると思われるにも関わらず、現段階では草稿を完成したに止まる日本語の二重ヲ格制約の分析に注力し、前項末尾で述べた概念的問題を更に追求した上で、得られた研究成果を論文の形にまとめてしまいたい。前項の(vi)の仮定はこれまでの検討からは妥当なものと考えられ、また(vi)も、前項(v)の再検討と新たなデータの観察を通して維持する可能性を探る価値は残されているため、引き続きこれらを作業仮説として理論構築を推し進め、前述の論文を纏める中で、とりわけラベル付けとの相互作用に関する予測を検証することで、転送と後転送組立が適用される詳細な機序の解明を目指す。更に、これらの取り組みから得られた結果をtough構文に適用し、当初想定していたよりも精緻な分析を与えることで、前項に言う後転送組立の「正の効果」が実際に認められるかの検証を行う。計画が予想より早く進展した場合は、引き続き法量化構文の検討へと進むが、現在までの考察からその妥当な分析のためには前項(vi)の採用が必須であり、かつ典型的な事例と異なる統語体が転送領域となる可能性をより詳しく検討する必要が生じる。このことは、前項(i)・(ii)の解明に向けて更に大きく前進することに繋がるが、一方で転送と後転送組立の非典型的な適用については、それを望ましく制約する条件を如何にして原理立った形で導出するかという問題の最終的な解決が求められる。それに備えて、先ずはtough構文までを当面の射程として整合的な理論を追求しつつ、広く関連現象の考察も進めたい。
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Causes of Carryover |
想定より廉価で購入できた物品があった他、書籍数点を伝票不備のため私費購入としたため。当該年度に請求する助成金のうち、次年度使用額分は関連書籍をより充実させるために使用する予定である。
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