2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Cyclic Transfer and Reintegration of Semantic and Phonological/Morphological Representations
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21K00575
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
前澤 大樹 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (60537116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 循環的転送 / 再統合 / 最小探査 / ラベル付け / θ標示 / 二重対格制約 |
Outline of Annual Research Achievements |
提案する再統合(reintegration)の「負の効果」を実証するため、昨年度草稿段階まで進めた日本語の二重ヲ格制約違反の分析を詳しく検討し直し、概念的問題の解決を図るとともに、説明対象を通言語的に拡大して二重対格制約一般をも扱い得る体系の構築を目指した。結果は論文の形に纏め、学術雑誌に掲載済みである。その成果としてとりわけ重要なのは、ラベルが統語体間の選択関係及びθ標示関係に基づいて決定されると仮定することで、ラベル決定法(Labeling Algorithm)への可視性を担保する素性「κ素性」を分析から排除することに成功した点である。更に、この分析はθ標示が最小探査(Minimal Search)に対して統語体を不透明にするという、極めて広汎な帰結を持つ提案を含んでおり、同じ体系で説明しうる現象を探求することによって、より大きな理論的貢献をなすことができると考える。最小探査は、ラベル決定法・素性付置・複製形成(FormCopy)など様々な統語捜査を律する操作であり、提案した分析では転送(Transfer)の適用もまた最小探査を伴うと仮定されているからである。また、このことにより、ラベルはインタフェイスへの写像においてのみ必要であるという本研究の作業仮説に対し、昨年度行ったスカンディナヴィア諸語及び目的語転移現象の分析から得られた否定的結論は、本来の展望に沿う形で再解釈される余地が生じることとなった。即ち、Holmbergの一般化は、目的語転移によって生じる{XP, YP}構造が、動詞移動を介してφ素性が構造の高い位置で共有された場合のみラベル付けされ、インタフェイスで適切に解釈される結果得られるのではなく、目的語転移を伴う構造で節主要部の選択特性を適切に認可されるためには、動詞移動が生じる環境が必要であることから導かれる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的には、昨年度策定し直した計画推進の方針に概ね沿う形で、ほぼ順調な進捗が得られていると言って差し支えない。前項に述べるように、統語派生に於いて選択及びθ標示が最小探査に及ぼす影響を探究することで、アドホックな素性の仮定に訴えることなく、転送の挙動を適切に制限することに成功し、自由転送が維持され得ることを示した。このことにより、少数の統語操作及び後統語的操作の相互作用から転送の循環的適用と位相を導出する簡潔な体系の構築に近づいたことには、極めて大きな概念的・理論的異議を見出すことができ、計画の目標に向けて当初の想定と異なる方向から大きな前進を成し得たものと考える。また、目的語転移現象の再解釈によって、ラベル付けの本質に関する作業仮説も維持できる可能性が高まり、最終的な結論が本計画当初の想定へと収束する見通しが得られつつあるように思われる。総合的に見て、理論的側面の探究と精緻化が本来の予定より先行しており、諸現象の分析は構築した体系の検証と修正のためという意味合いが強くなり、寧ろ取り組みやすくなった。以上のように、本年度は計画全体の中で望ましい進捗が見られたと言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
前項で述べた通り、計画していた諸現象を分析する理論上の準備は十分に整っており、最終年度に向けてこれらの実施に取り組む予定である。とりわけtough構文については、そこに見られる再構築可能性が、再統合を仮定して初めて予測されるという「正の効果」を示す現象として重要であり、二重対格制約に見られる負の効果と併せて、本計画が示そうとする再統合の存在に対する強力な支持を構成することとなる。現在、既にtough構文に関する研究発表1件を予定しており、更には論文の形に纏めるべく引き続き取り組みを進めていきたい。法量化構文については、本来の計画ではこの段階でどの程度分析が依拠する理論の構築が進んでいるかが懸念されたが、その点ではかなり容易となっている。但し、現象そのものの詳細については現状十分な把握ができていないことは否めず、関連文献に集中的に当たることで、より精緻な観察を進める必要がある。tough構文については、かなり詳細に言語事実を捉えられていると考えるが、やはり分析の精緻化を期して更なる経験的データの収集に努めたい。理論についての最新の動向や議論を把握するためにも、依然広汎な文献の渉猟が必要と思われる。
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Causes of Carryover |
扱う現象が二重対格制約に関する範囲に集中したため、必要となる書籍が想定より少なかったことに加え、依然コロナ禍の状況下でほぼすべての学会・ワークショップ・研究会等がオンラインで開催されたため、旅費の支出がほぼ無かった。分析対象となる現象を広げる予定であることに加え、コロナウィルス感染症も一通りの落ち着きを見せ、学会の対面開催も増えると見込まれるため、請求する助成金のうち、次年度使用額分は主に関連書籍の充実と旅費に使用する予定である。
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