2022 Fiscal Year Research-status Report
A Top-Down Approach to Licensing of Various Syntactic Elements
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21K00583
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90263805)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 否定極性項目 / 認可 / トップダウン派生 / c統御(構成素統御) / 生成文法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、否定極性表現の認可方法に関して先行研究の問題点を検証し、トップダウン式構造構築にもとづく統語分析が有用であることを支持する研究を行った。Kato 2002やNishumura 2007などのボトムアップ式の派生分析ではanyなどの否定極性表現が派生の途中でnotなどの否定辞にc統御されることで認可されると主張し、派生の別の時点で否定辞が否定極性表現にc統御されるということが生じると、認可がキャンセルされるため、否定極性項目の認可ができなくなるということがあると主張している。彼女らは英語の否定文において否定極性表現が主語位置に現れると非文法的な文になる(例:*Anyone didn’t eat apples.)ものの、Did anyone not attend the party?のような文法的な文では一度得られた認可の関係がキャンセルされるために文法的な文になると説明した。このような分析の問題点は、派生のあらゆる時点における否定極性項目の認可を監視し、すでに築かれた認可の関係をキャンセルするという複雑な操作を必要とする点にある。これに対し、トップダウン式の代案では派生の途中でいったん否定極性項目が認可されればその認可関係をキャンセルする必要がなく、複雑な操作を必要としない理論を構築することができる点を今年の研究で明らかにした。このような点を論考にまとめ、査読なしの紀要に掲載した。 また、関連する生成文法理論の研究を行うべく、Jason GinsburgやSandiway Fongや松本マスミとともに、日本語における複合動詞の派生に関する共同研究に加わった。寺田はもっぱらデータの提供を担当したが、国際学会でのポスター発表にZoomで参加し、質疑応答も行い、有益な指摘を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究に費やすことができる時間がほとんど得られない。勤務先では週に1日の研究日を確保できるようにという工夫が行われているようではあるが、1年で50日の研究を行う時間があればそれで事足りるわけではない。 実際にはその50日を科研の研究に費やせるわけではなく、勤務先で必要とされる事務的な仕事が大量にあるため、研究に充てる時間が損なわれている。日本の注目される論文数が過去最低の世界12位にまで低下しているというニュースが今年度駆け抜ける結果となったのは当然のことである。 学内の事務的な雑務が増えている以上、研究の時間は今後ますます減るだろう。そのような劣悪な労働環境の中で、健康診断の結果も基礎疾患に近いレベルにまで悪くなっている。心も体も悲鳴を上げながら、事務仕事に時間を取られ、その合間に研究を行っている。その割に当方が査読のない紀要に論文を掲載することができただけましであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、この個人の科研費の研究テーマとしている、否定極性項目を中心として、数量詞に束縛される代名詞の弱交差現象やそのほかの統語現象にみられる認可についてさらに研究を進め、認可される側が認可する側にc統御されていない場合でも認可されることがあるのはなぜなのかというトップダウン式構造構築理論にとって問題となる現象や先行研究について知識とデータをさらに得る予定である。 先行研究では満足の得られる分析がこれまで得られているようには思われないため、非常に説明の難しい現象であることは予想がつく。それゆえ、この難問を追求しても大きな成果は得られない可能性があるが、それに取り組むことが認可について知るための必要不可欠な問題であることに間違いはないだろう。 さらに共同研究者たちとの日本語の複合動詞の研究にも協力し、Chomsky 2021で提案されいるForm Copyという概念についての理論的な貢献を行うことができるようにこのテーマについての共同研究を続けていく。
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Causes of Carryover |
The 30th Japanese/Korean Linguistics Conference (at Simon Fraser University) (JK30)(第30回日本語韓国語言語学会)におけるポスター発表のためカナダのサイモン・フレイザー大学への往復の交通費に2022年度の研究費を充てることができるはずであったが、家庭の事情でそれを断念せざるを得なくなった。また本研究に関わりの深い研究図書が予想を下回る数しか出版されなかったため、次年度使用額に充てることとした。 今年度において物価の高騰と円安により、旅費や洋書(とくに電子図書)の購入を行うとなると、かなりの金額がかかると思われるため、2022年度の繰越金をこれに充てるのが望ましく思われる。
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Research Products
(2 results)