2021 Fiscal Year Research-status Report
近代英語における「重複複合語」の研究:社会言語学の視点を交えて
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21K00585
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
脇本 恭子 岡山大学, 教育学域, 教授 (00258295)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 重複複合語 / reduplication / 語形成 / 社会言語学 / 近代英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代英語研究の大家 Gorlach も指摘するように、英語史上、語彙が最も著しく急増したのは初期近代英語 (Early Modern English: EModE) の時代であるが、外来語の流入と共に「語形成」に拠るところが大きく、Shakespeare 研究の Scheler (1982) も、「新造語」を語彙増大の最も重要な要因としている。よって、これまでの自分の研究も、EModE 期から後期近代英語 (Late Modern English: LModE) の時代の語形成の特徴を明らかにすることに焦点を当ててきた。その語形成の中でも、今回本研究が着目しているのが “kicky-wicky,” “shill I shall I,” “tittle-tattle” の様に、同一もしくは類似した音節が反復して結合する重複複合語 (reduplicative compound) である。 Reduplication は、これまでにも世界の諸言語を資料に数多く研究されており、音韻論的、形態論的な分析においては枚挙に暇がなく、邦人研究としても Modern English Grammar の分類を参考にした Okamura (1991) や、この Okamura (1991) と Crystal (2010) などを参考にした大里 (2013)、18世紀の英語に特化した Ono (1988) などが挙げられるものの、我が国におけるこの分野の研究は決して十分とは言えない。そのような状況に鑑み、本研究ではさらに、文脈の中で活かされる重複複合語、特に、男女差のような使用者の傾向も含めて考察するなど「社会言語学」の視点を交えて調査・分析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、「近代英語における「重複複合語」の研究:社会言語学の視点を交えて」を研究課題とする新規の科学研究費の交付を受けた初年度で、この年度に中心的に扱ったのが、現代英語(20世紀)から19世紀に遡る作品の英語という比較的新しい時代を資料としての考察であった。考察の際には、重複複合語・加重音節 (reduplication) やその新語を用いることにより「どのような文体的効果が期待されるのか?」といった点や、作家自身や登場人物の性別により「使用の違いが見受けられるのか?」といった点にも目を向けながら例を吟味していったが、勤務校での優先的業務のため、考えていたようには資料や用例が集まらず、今のところ、当初の計画よりやや遅れている。 なお、今年度に出した論文としては「言葉の多様性から考える大学英語教育―社会言語学からの実践的アプローチ」で、ジャンルの異なる広範囲な資料を「社会言語学」の視点から分析する方法を模索した。その中で、語形成による造語として、二つの単語の一部を組み合わせて作られた混成語 (blend) や音節重複形容詞形 (reduplicated adjectival form) に触れた。特に後者については、男女の言語差を研究した Poynton (1985: 73) の “women are reputed to use more reduplicated adjectival forms” という指摘を検証する一つの資料として、男性が女性に扮するアメリカ映画の中に見られる重複複合語を扱った。
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Strategy for Future Research Activity |
作家は意識的であれ無意識であれ、登場人物の心理・性格描写や文脈に即した言葉を選択するものであるが、重複複合語やその新語を用いることにより、どのような文体的効果が期待されるのか、Shakespeare を中心とする EModE 期の先駆者とその後に続く Samuel Richardson, Henry Fielding, Charles Dickens など LModE 期や現代の作家には何らかの共通点があるのか、あるいは前時代のものを継承しながらも、さらにどのような創意・工夫を加味していったのかなどの点に目を向け、通時的に吟味・考察していく。特に、性差による使用の違いという社会言語学的視点から調査・分析していくことを念頭においている。 具体的には、EModE 期の文学作品に重複複合語やその新語が導入される際の形成の仕方、音韻的特性、語源や語の持つ含みを LModE 期の場合と照査し、前時代の技巧が後続の作家にどのように継承されているのかを検証する。他方、N. Bailey 編纂の An Universal Etymological English Dictionary (1721)、Dr. Johnson の A Dictionary of the English Language (1755)、J. Ash の The New and Complete Dictionary of the English Language (1775: NCDE)、Grose の A Provincial Glossary(1787)、C. Richardson の A New Dictionary of the English Language (1839) など、本格的な辞書編纂が進んだ18世紀から19世紀の英語辞書の記載状況を調べ、語の普及・定着度を見定めていく。
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Causes of Carryover |
令和3年度に未使用額が発生した理由としては、この度、新規の科学研究費の交付を受けた「近代英語における「重複複合語」の研究:社会言語学の視点を交えて」の研究課題を遂行するため、これまで使用していた古い(また容量不足の)パソコンから新しいパソコンに買い換えるのに充てた費用が、当初考えていたものより幾分安価であったためである。次年度における未使用額の使途内容であるが、研究の趣旨として、多くの資料や用例を集め、パソコンに取り込む必要があるが、調査・分析をしたデータをパソコンだけでなく、外付けのハードディスクにも保存し、データを失わないようにすることにある。未使用額は寡少の額ではあるが、新しい外付けハードディスク購入のための経費に充てることとしたい。
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Research Products
(1 results)