2021 Fiscal Year Research-status Report
コミュニケーション能力を重視したジャンル・アプローチに基づくライティング指導
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21K00687
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
上村 妙子 専修大学, 文学部, 教授 (30205926)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ライティング / ジャンル・アプローチ / コミュニケーション能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本人英語学習者を対象とした効果的なライティングの指導方法を考案し、その効果を検証し、問題点を明らかにすることである。指導方法の考案に当たっては、2つの理論的背景を重視した。1つ目は、ジャンル・アプローチに基づき、書く上での目的、読み手、状況といったコンテクストを考慮し、適切な文章構造と言語形式を使って意図した内容を文章にまとめる指導を目指すことである。2つ目は、communicative competence(Canale & Swain, 1980)の構成要素の中の文法能力、談話能力、社会言語能力を統合する試みを行うことである。 2021年度は、ジャンル・アプローチと、特に社会言語能力との結びつきに焦点を当て、eメールを対象ジャンルとする研究を行うこととした。指導方法を考案する前に、日本人大学生のeメールを書く能力を把握する必要があると考え事前調査を行った。具体的には、アメリカの留学先の指導教授に、現地の大学で履修すべき科目等について相談するための面会を申し込むという設定で依頼のeメールを書くという課題を用意した。学生の書いたeメールを内容、構造、言語表現の観点から分析し、その特徴を明らかにした。この研究結果に基づき、日本人大学生を対象に、内容、構造、言語表現の各観点に関する指導方法を考案し、指導前と指導後の学生によるeメールを比較分析した。分析の結果、3つの観点すべてにおいて、ジャンル・アプローチに基づく指導効果は認められたものの、内容、構造に比べ、言語表現における伸びは小さく、特に複雑な構造をもつ埋め込み文(I was wondering if...など)は、指導後においても使用頻度が低いことが判明した。事前調査の結果は2021年度に論文として発表している。指導効果を探った研究の結果も論文としてまとめ2022年度中に発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には、社会言語能力との結びつきが強いeメールを対象ジャンルとして、ジャンル・アプロ―チに基づく指導方法を考案し、その効果を検証し、また問題点も明らかにした。学生にとって、eメールは書く目的や読者といったコンテクストを把握しやすく、ジャンル・アプローチに基づく指導を行う上では適切なジャンルであったと言える。 日本における従来のライティング指導方法は、文を単位とし、文法と語彙の習得を目指す和文英訳を主とするものであった。ジャンル・アプローチに基づくライティング指導は、コンテクストを重視した文章作成を目的とするものであり、従来の指導方法を補い、さらに超える画期的な指導方法として、その指導効果はおおいに期待されるものである。2022年度は、よりアカデミックなジャンルであるリサーチ・ペーパーを対象に、指導方法を考案する予定である。 なお、ライティングの指導をする上では、その前提として日本語と英語の語彙、文構造及び文章構造を比較し、学習者に両言語の違いを意識化させることも重要となってくる。そうした違いは、日本語と英語というそれぞれの言語とそれを取り巻く社会的・文化的コンテクストとの関係から生じるため、その関係を論じた原稿の執筆を行った。これは、いわば日本語・日本文化と英語・英語圏文化との間の「グローバルな異文化コミュニケーション」を扱ったものとも言える。この原稿は、2022年度専修大学図書刊行助成に応募し採択され、2023年2月に刊行予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、ジャンル・アプローチに基づく指導方法を考案するに当たり、communicative competence(Canale & Swain, 1980)の構成要素の中の社会言語能力と関連が強いeメールを対象ジャンルとした。2022年以降は、談話能力も視野に入れ、よりアカデミックなジャンルであるリサーチ・ペーパーを対象に指導方法を開発する。 具体的には、「あなたが住む市町村に外国人観光客を誘致するため、外国の観光局向けにその市町村の魅力を伝えるための企画書としてデータや根拠を示したリサーチ・ペーパーを作成する」という課題を日本人大学生に与える。指導に当たっては、まず構成に関しては、序論、本論、結論という論旨の流れ(move)を示す。具体的には、序論では背景と主張を提示し、本論では複数の根拠を示し、結論では全体をまとめ、主張を再度示すことを指導する。言語表現に関しては、主張を示す表現(We propose..., We recommend...など)、理由を導入するつなぎ言葉(First, The first reason isなど)、根拠を示す表現(According to..., Figure 1 shows...など)を教える。さらに、アカデミック・スキルとして、信頼性のある資料の見つけ方や使い方についても指導する。学生によって書かれたリサーチ・ペーパーは、構造、言語表現、根拠の信頼性の観点から分析し、指導効果を検証する。また、指導における問題点も明らかにし、指導方法の改善をめざす。研究結果は論文にまとめ学会及び応用言語学関連のジャーナルに発表する予定である。 また、本研究の大枠及び前提を成す言語とそれを取り巻く社会的・文化的コンテクストとの関係を論じた図書については、現在編集作業に取りかかっており、2023年2月に刊行予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響により、国内外への学会発表及び資料収集のための出張が困難となり、旅費が支出できなかった。また、同じく新型コロナ感染症の影響により、データの分析を補助するアルバイト学生と対面で打ち合わせを行うことができず、人件費・謝金を使うことができなかった。今年度は、感染状況により出張及びアルバイト学生との打ち合わせが可能となることと思われる。
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Research Products
(1 results)