2021 Fiscal Year Research-status Report
イタリアの複言語主義にもとづく移民児童生徒への教育政策とその実態
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21K00789
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
西島 順子 大分大学, 教育マネジメント機構, 講師 (80879065)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 複言語主義 / 複言語教育 / plurilinguismo / 民主的言語教育 / イタリアの言語教育政策 / トゥッリオ・デ・マウロ / 移民児童生徒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1970年代に他国に先んじて、教育格差を是正するために複言語教育に取り組んだイタリアの言語教育政策の今日までの変遷を振り返り、複言語主義に基づく教育の有効性を文献資料と現地調査によって明らかにするものである。 イタリアでは1975年にplurilinguismoを包摂する「民主的言語教育」が提唱されたことにより、従来イタリア語のみを是としてきた言語教育が見直され、少数言語や地域言語に対する承認が促進された。イタリアはこの言語教育の理念が素地にあり、1970年代には国内の少数言語・地域言語話者、また1980年代以降は移民生徒を受け入れてきた。2021年度は、民主的言語教育が政策に影響を与えたか、また移民生徒の教育に関連付けられたのか、文献や法律文書をもとに調査し、以下の点を明らかにした。 1)民主的言語教育は1977年の中等教育に関する法律に影響を与え、中等・初等教育課程が改定された。2001年には「基礎教育カリキュラム」が発布され、そこにplurilinguismoの理念も含まれていた。政権交代により一時政策は後退したが、2007年に生徒の多様性を重視する「カリキュラムへの国家方針」へと転換が図られた。ここには欧州評議会の複言語主義に関する言及が見られる。この一連の政策に民主的言語教育の提唱者であるデ・マウロが関与していることが明らかとなった。 2)移民生徒への教育は、1980年代から移民が急増したイタリアでは1989年に「義務教育へ向けた移民生徒の教育」が制定され、これが多言語教育に言及する初めての法律となった。その後2002年度の法改定を経て、2012年に、上記「カリキュラムへの国家方針」に関連付けられたことを明らかにした。 このplurilinguismoの変遷を明らかにすることは、今後、現地で具体的な教育内容を調査するための基礎的研究として重要であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大が終息の見通しが立たないため、文献調査に集中して取り組んだが、物流の停滞によりイタリアから必要な文献の到着が遅延するなどした。また、今年度中に予定していた第1回現地調査は渡伊の可能性が不確定であったため、2022年度に延期した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はこれまでの文献調査に加えて、主に以下の研究を進める予定である。 1)1970年代から80年代に初等教育に関わった教員に対し、聞き取り調査を行う。当時、民主的言語教育の影響が教育現場に及んだか、plurilinguismoを認識し具体的な言語教育を行ったかなど言語教育の実際を明らかにする。また、1980年代以降の移民生徒の受け入れの際に、plurilinguismoの概念の援用があったか解明する。 2)現在のイタリアの複言語教育の実際を明らかにする。イタリアでは学校の裁量で、ある程度自由にカリキュラムを組むことが許されている。それゆえ、複言語・複文化教育に関わる授業を展開する学校がある。plurilinguismoの素地のあるイタリアが、現在いかなる複言語教育に取り組み、移民児童を学校教育に包摂しているか明らかにする。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ感染拡大の影響で渡航の目途が立たず、予定していた現地調査を次年度に延期したため旅費の使用はなく、予算の執行は主に文献資料に留まった。現地調査は、2022年度の9月に行う予定で、現在、計画と調整を行っている。
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Research Products
(3 results)