2021 Fiscal Year Research-status Report
音韻認識と形態素認識に基づく英語の「語の読み書き」指導を通した小中接続
Project/Area Number |
21K00790
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
池田 周 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (50305497)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 小学校英語教育 / 英語読み書き指導 / 音韻認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)英語読み書き技能発達のレディネスとされる「音韻認識」が、実際に語を発音し、綴る技能習得に役立つためにはどのレベルまで発達しておく必要があるか(音韻認識の threshold level)を明らかにし、その到達状況の確認テストを開発すること、および (2)小学校で高めた音韻認識を生かして中学校で形態素認識を促すタスクを作成し、読み書き指導の小中接続に貢献することを目的とする。これらの目的に向けて設定した10個の課題のうち、研究初年度である2021年度は、①音韻認識や形態素認識が、語の読み書きにどう機能するかに関する文献研究、②中学1年生の音韻認識、形態素認識、語の読み書き習得状況の測定、および③(②の結果や読解理論を基に)語の読み書き習得に必要な音韻認識レベルの特定、に取り組む計画であった。 これまでの研究から、音韻認識に焦点化した指導により、小学校第3~6学年児童の音韻認識が高まり、学年が進むにつれ精緻化すること、さらに文字を用いて音韻認識指導の効果を保持できれば語の音読にも波及することを指摘している。それを発展させて今年度はまず①から導かれた手法で、指導により高まった音韻認識が、語を聞いて書き取るタスクにどう反映されるかを調査したデータの分析・考察を行った。小学校第3学年の児童に、国語科のローマ字指導に組み込んで音韻認識指導を行い、指導後に音素レベルの音韻認識測定、およびローマ字と英語で語を書き取るタスクを実施した。小学校段階では発音と綴りの関係は外国語の学習内容に含まれないため、児童にとって英語の語を書き取ることは、聞こえた音素レベルの音を組み合わせて書き出すinvented spellingである。音韻認識が高いほど、英語の小さな単位の音への気づきを書き取りに生かす傾向が確認され、音韻認識指導が産出技能にも寄与することを明らかにできたことは意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、本研究の目的を踏まえて設定した具体的課題のうち、①音韻認識や形態素認識が語の読み書きにどう機能するかに関する文献研究が中心となった。近年英語を母語とする国々の研究成果が広くオンラインで公開されるようになったこともあり、様々な音韻認識指導教材や測定タスクを収集し、英語を母語とする子どもの場合の対象レベルと日本語を母語とする子どもに適切なレベルを、英語学習の内容や方法に照らして考察・検討する形で進めることができた。そこから小学校第3学年児童のローマ字学習と関連づけて音韻認識指導を導入し、外来語として日本語でも用いられている語を英語と日本語で聞き取り、それぞれアルファベットを用いて書き取るタスク作成などへと発展させることができた。その一方で、②中学1年生の音韻認識、形態素認識、および語の読み書き習得状況の測定、さらにその結果を踏まえた③語の読み書き習得に必要な音韻認識レベルの特定については、進捗が遅れている。 その理由としては主に2点ある。1つ目は、課題②の中学校でのデータ収集に、対象クラスでそれぞれ複数の授業時間を用いた調査を要することなどから、感染症対応で先が読めない状況の中での実施を断念したことである。これについては協力校から2022年度の実施について承諾を得ており、調査が可能となる予定である。2つ目の理由は課題②③に関わり、形態素認識につながる音韻認識の発達段階の検討に時間がかかっていることである。すなわち、小学校「外国語」ではまとまりのある語句や表現を分解せずに音声で慣れ親しみ、実際に言語活動で用いてみる指導の流れであること、さらに小学校では文法事項を扱わないため、形態素の部分の音の響きへの気づきが促されるタイミングが英語母語話者よりかなり遅いと想定されることなどから、英語を母語とする子どもを対象とした研究の知見を応用するための慎重な考察を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進に向けては、まず具体的課題②に当たる中学生を対象とする音韻認識、形態素認識、および語の読み書き習得状況を測定する調査を、内容と対象学年を拡大して実施する。つまり調査協力校が中高一貫校であることを踏まえ、2022年度の研究計画となっている課題のうち、④音韻認識測定に適切な手法や扱う語を検討してテスト作成、および⑤テストを小学生高学年と中学校第1学年で実施して学年別の音韻認識レベル到達状況の確認に関連づける形とする。これを2023年にも繰り返すことにより、当初の研究計画にはなかった児童生徒の音韻認識や語の読み書き能力の経年変化の観点を分析と考察に含めることを可能にする意図である。さらに音韻認識の発達がその後の形態素認識や語の読み書きという初期リテラシー獲得にどう影響するかを明らかにする手法として、語の読み書きだけでなく、CEFRレベルを参照しながら「読むことの領域の能力発達」との関連を調査に組み込む予定である。この一連の過程を通して、課題⑥開発したテストの信頼性と妥当性の検証と項目の調整を行う。 さらに検討に時間がかかっている音韻認識から形態素認識への発展については、小学校英語教育ではまとまりのある語句や表現を音声による慣れ親しみを通して導入することや、文法事項として文を分解して学ばないために複数形や動詞の変化を意識化しないことなど考慮が必要な条件が多く認識されている。このことが小学校段階で、音韻認識の形態素認識発達へ貢献を難しくする可能性もあるため、慎重に英語を母語とする子どもの形態素認識発達の知見に基づいて考察する必要がある。上記課題②の調査に組み込むことができれば、文字を用いて文法事項を体系立てて学び始めた中学校第1学年だけでなく第2学年の生徒も対象に、語彙レベルを統制しながら形態素認識の測定を行い、音韻認識レベルとの相関関係も確認する計画である。
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Causes of Carryover |
2021年度末の時点で「次年度使用額」が生じたのは、主として以下の理由のためである。1.具体的課題②として予定していた中学生を対象とする音韻認識、形態素認識、および語の読み書き習得状況を測定する調査の実施を断念したことにより、それぞれの測定タスクの資材や実施機器、分析ソフトなどの購入が遅れたこと。2.研究成果を公表するために発表を行った学会やセミナーがいずれもオンライン開催となり旅費が発生しなかったこと。 「次年度使用額」および2022年度分として請求した助成金は、上記「次年度使用額が生じた理由」の1に当たる調査を、対象学年を第1学年だけでなく第2学年まで拡げ、さらに音韻認識測定については今後、経年変化も確認できるように小学校高学年も含めて実施するための経費として使用する。さらに対象児童の初期リテラシーに関する能力測定には、妥当性が検証された2領域(聞くこと、読むこと)の既存のテストを使用するため、対象児童生徒数分の購入費用にも充てる。また文献研究のための資料収集や、開発した音韻認識タスクの検証や学校現場への普及に向けた教材整備に必要な用紙購入や印刷等にも使用する。データ分析も様々な形で適切に行うことができるよう、統計ソフトを整備し手法の学びを深める。さらに、本研究の成果を外国語としての英語教育への示唆として、国内外の学会もしくは研究論文を通して公表するためにも使用を計画している。
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