2023 Fiscal Year Research-status Report
Land / Sea Eurasian Transport and the Formation of Muslim Traders' Diasporic Identity
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21K00819
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
向 正樹 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10551939)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 南海地理書 / 地理情報 / 地名比定 / アラビア語碑文 / アイデンティティ / ディアスポラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題のテーマの一つである,「陸海ユーラシア交通」に関して,本年度の研究作業として次のような進展があった.(1)中国地理書にみえる南海地名情報データ作成。19世紀初頭から近年までの研究成果を参照しつつ学説整理を行い,それらの南海地名が示す具体的な位置を推定し,その緯度・経度をデータに加えていった。その際,a.先行研究によりほぼ位置が確定済のもの,b.複数の候補地で揺れているが一応有力な説があるもの,c.推定はなされているが十分な批判的検証がなされていないもの,d.全く不明なままのもの,に分類した。(2)宋・元時代の南海の国家間関係の視覚化.『諸蕃志』『大徳南海志』は,単に中東~東南アジアの国名を列挙するのみならず,大・小の国家間の統制関係を記している.それらは実際の支配・従属関係を示すものであるのか,交通や遠距離交易における関係性を示すものであるのか,或いは両方を含むものであるのか,検討が必要である.そのため,(1)のデータをもとに,地理情報システム(GIS)ソフトを用いて,中東~東南アジアのどの大国にどういった小国群が従属すると宋・元時代の地理書が認識していたのかが分かるように,マッピングを試みた.その際,上述の(1)の地名比定のうち,すべてのマッピング可能な地名をGISソフトで視覚化したが,確度の高いもの(a・b)のみをマッピングした地図のみを拙著『クビライと南の海域世界』(大阪大学出版会,2024年2月)地図8(283頁)に発表した. 「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」については,2023年5月に神戸モスクやハラールフード店での聴き取り調査も行い,8月の大阪府泉大津市のロシア兵墓地におけるムスリム兵の墓石の3D撮影を試験的に実施し,アラビア語刻文読解を進めた.また3月にシンガポールのアジア文明博物館にて現地出土イスラム碑文等の調査を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度研究期間の半ば以上は依然としてCOVID-19の影響から抜け出しておらず,海外調査はCOVID-19の影響がやや緩和した3月に,シンガポールでの調査を限定的に行うことができただけであった.そのため,本研究計画の主要テーマのうち「陸海ユーラシア交通」に関連する地理情報整理のための文献調査に多くの時間を投入した. 一方で,「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」に関しては,国内におけるムスリム・アイデンティティの動向について調査を進めた.8月に実施した泉大津市のロシア兵墓地調査では,肉眼では読み取りが不可能に近かったアラビア語刻文について3Dスキャンを実施し,今後の調査の進展に希望が持つことができた.神戸モスクやハラール・フード店,勤務先の大学で行ったハラール・フード・イベントにおける聞き取り調査では,少数のインフォーマントから貴重な知識が得られたものの,十分な人数を獲得できなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
「陸海ユーラシア交通」に関連する地理情報データの整理作業とそれにもとづくマッピング・視覚化をさらに進めることとしたい.従来ヨーロッパ東洋学や中国の対外関係史および日本の東洋史学の研究者らによって提示されてきた有力な地名比定結果をデータに整理し,地図にマッピングする. 2023年度に限定的に行った海外現地調査(シンガポール)では,17世紀のオランダで製作された地図の展示があり,地名比定の検証作業に参照可能であることを再認識した.すでに入手したヘンリクス・ホンディウス「アジア図」のほか,アブラハム・オルテリウス「東インド図」その他の西洋古地図を参照し,これまで未確定となっている地名の比定に有力な手がかりを得たい. 『元史』本紀や列伝に残される断片的な対外関係記事の整理を行う.先行研究や研究代表者自身によって,元と諸外国の使者の往来数の推移を示す年表が作成されているが,互いに齟齬も多い.今後の課題として,一つ一つの事例の検討を丹念に行う必要がある.そこで本研究ではそうした検討作業のため,上述の表の典拠となる記事を要約した一覧を作成し,それぞれの記事について関連情報を付け加えていけるようなデータベースの構築を行いたい.また『元史』馬八児伝のように重要な対外関係記事を含む史料の訳注を作成する.それらのデータを有機的にリンクさせることで,モンゴル時代の「陸・海ユーラシア交通」の歴史研究の今後の進展に資することができる. 「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」に関しては,泉大津市ロシア兵墓地を再訪し,調査を実施したい.また墓石に刻まれた聖典章句をムスリム・アイデンティティの指標とする研究手法に加え,出身地の食文化を移住先でどのように維持,または,変容させていくのか,という文化的な観点からのアイデンティティの諸相の分析も併せて進めてみたいと考えている.
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Causes of Carryover |
すでに述べたように2023年度はCOVID-19の影響により,研究計画書提出時に予定していた海外調査を十分に実施できていない.さらに,日本国内で進めているムスリムのディアスポラ・アイデンティティの調査については,予備調査の段階であり,3D撮影のテストなどを行ったが,費用は生じていない.研究代表自身もCOVID-19により,予定した研究計画を遂行することができなかったこともあり,次年度に本格的に計画していた研究活動を実施するために,次年度使用額が生じた.
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[Book] 岩波講座世界歴史10 モンゴル帝国と海域世界 : 一二~一四世紀2023
Author(s)
宇野伸浩, 四日市康博, 松田孝一, 飯山知保, 松井太, 関周一, 向正樹, 高橋英海, 渡部良子, 中村淳, 渡邊佳成, 森達也, 川口琢司, 松川節, 高田英樹, 木村淳, 諫早庸一, 大塚修
Total Pages
312
Publisher
岩波書店
ISBN
9784000114202