2022 Fiscal Year Research-status Report
膠着剤のオリジナルな姿を後世に遺せるか―大豆系膠着剤の可逆的な修理法を探る―
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21K00825
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
大橋 有佳 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10804388)
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Project Period (FY) |
2022-02-01 – 2025-03-31
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Keywords | 紙本文化財 / 膠着剤 / 大豆糊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)膠着剤の分析調査による材料や製法を推定、(2)それに基づいた再現試料の作成、(3)剥離強度試験による剥離法の効果の評価という3つの柱からなる。
2022年度は、膠着剤の材料や製法を推定することを目的として、経典類の接着に使用された大豆系膠着剤の調査分析を進めた。奈良市内の寺院が所蔵する経典類の紙継ぎ部分に使用された膠着剤について、実体顕微鏡や拡大観察可能なデジタルカメラを用いた調査等を実施した。調査により得られたデータと、これまでの調査や試作試料の分析により得られたデータと比較し、製法の推定を行った。また、個人蔵の典籍類の膠着剤や、試作した膠着剤試料について、電子顕微鏡による観察や元素分析などを新たに行い、製法推定のための基礎データを蓄積した。 さらに、着剤の再現試料を用いた試験のための準備を、次年度以降から今年度に繰り上げて実施した。試作した膠着剤試料に対して、熱分析(DSC、TG)などの分析を行い、最適な試料形態や測定条件を探索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査分析対象が変更となったため、膠着材の分析調査数は予定していた数には満たなかった。他方で、次年度以降に計画していた再現試料の予備試験を進める事ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
膠着剤の製法を推定することを目的として、寺院等に所在する典籍類における膠着剤の分析調査をさらに進めて行く。これまでの分析調査により、膠着剤の多様性についても明らかとなってきたため、新たな膠着剤の試作試料を複数作成し、オリジナルの膠着剤との比較を行うための基礎データの集積を並行して行う。 また、再現試料を試作し、各種方法による予備実験を進め、膠着剤の劣化や剥離強度の最適な評価方法を選定する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、人工劣化試験機の購入を予定していたが、他の科研費との共同利用が可能となったため、初年度の使用額が大幅に減った。また、分析調査を奈良県外などでも予定していたが、奈良市内近郊での調査となったため、今年度は旅費を使用しなかった。 これらの未使用分は、次年度以降に行う調査のための分析機器の購入に使用する他、初年度の成果で膠着剤の製法の多様性が明らかになってきており、再現試料の必要数の増加が見込まれることから、試料の作成費用や、試験費等の謝金に充てる。
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