2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00839
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Research Institution | Kawamura Gakuen Woman's University |
Principal Investigator |
辻 浩和 川村学園女子大学, 文学部, 教授 (70735513)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本中世史 / 身分 / 集団 / 奈良 / 遊女 / 遊女屋 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
・2021年度は内閣文庫や春日大社、興福寺、野上記念法政大学能楽研究所などに所蔵される興福寺引付類をはじめとして中世後期奈良の古記録から、14~16世紀の遊女屋史料を蒐集する作業を行った。またこれらの成果を京都の遊女屋史料と対比するため、同時期の京都に関する古記録からも遊女屋史料の収集を行った。 ・以上の作業によって、15世紀における遊女屋の増加と遊女屋経営形態の変容が関連している点が明らかになった。このことは、中世遊女集団の崩壊と遊女屋集団の形成が15世紀に行われるという本研究の見通しをさらに具体化する成果と言える。 ・同時に、遊女屋の増加が破却・検断事例と時期的に関係することが明らかになったため、京都と奈良の都市政策・行政のありようを比較しつつその位置づけを考察した。その結果、京都と奈良では遊女屋への対処に相違があることが明確となり、遊女屋と都市領主との関係性、および都市社会からの遊女屋の疎外について、都市論の視角から考察する糸口が得られた。 ・以上の成果は歴史学研究会中世史部会大会準備報告会(第1回、2022年2月5日)で「都市における遊女集団の展開と都市権力」と題して報告したほか、日中韓女性史国際シンポジウム「東アジアのセクシュアリティ」(2022年3月26日)において「日本中世における遊女と客の関係性:その変容に着目して」と題する報告を行った。また、奈良における遊女屋の排除を中心として「中世後期の遊女屋をめぐる社会観念」を執筆し、『国立歴史民俗博物館研究報告』に投稿した。 ・あわせて、 親鸞仏教センター「親鸞と中世被差別民に関する研究会」(2021年12月6日)において「中世身分論の研究動向」と題する報告を行い、中世身分論に関する研究動向と理論的な問題について整理・討論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
・第1年度は、奈良における遊女屋史料、特に遊女屋の破却・検断に関する史料を蒐集・分析することで、遊女社会と都市領主との関係性、および遊女社会と一般社会との関係性を追究する計画を立てていた。 ・新型コロナ感染状況の好転や史料のデジタル閲覧環境の整備もあって、史料の蒐集は予想以上に順調に進んだ。そのため、蒐集した奈良の事例と比較検討するために京都の遊女屋史料をある程度蒐集することができた。このことは、本研究における考察に広がりと深みをもたらすものであり、とりわけ奈良と京都における遊女屋増加の時期的一致、および両都市間における遊女屋支配の様相の相違などは遊女社会と都市領主・都市社会との関係性を探るうえで大きな成果であった。 ・ただし、当初計画していた奈良の人身売買・誘拐事例は予想以上に事例所見が少なく、遊女の売買ルートをめぐる研究に関してはあまり解明が進まなかった。 ・以上より、総合的に見て第1年度における本研究の進捗には予想以上の進展があったと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
・第1年度の事例蒐集によって遊女屋破却には興福寺衆中・講衆が関与していることが明らかとなったため、第2年度は衆中引付を中心としてさらに事例蒐集につとめる。具体的には天理図書館所蔵保井家文書、奈良市立史料保存館寄託竹林家文書、野上記念法政大学能楽研究所所蔵史料などの閲覧と蒐集を進める。あわせて、京都大学所蔵一乗院文書や成簀堂文庫古文書(石川武美記念図書館所蔵)、奈良県立奈良図書館所蔵史料、薬師寺史料(薬師寺所蔵)等の調査も進めたい。 ・第1年度の調査によって、15世紀の京都・奈良における遊女屋増加の画期性が明らかになった。このため第2年度には時期的変遷の地図化や都市行政研究との比較等を行い、京都・奈良の状況に即して遊女集団の崩壊と遊女屋集団の形成を考察したい。 ・さらに、遊女屋集団の定着と遊廓の形成とを連続的に理解するため、16~17世紀の状況に即した検討を進めたい。具体的には、近世史における遊女町研究の進展を踏まえつつ、京都島原遊廓、および奈良木辻遊廓の形成過程を解明し、遊女屋集団と一般町人との関係性を考察したい。 ・以上の成果は歴史学研究会中世史部会大会準備会(第2~4回)および歴史学研究会中世史部会大会にて「京都・奈良における遊女屋の展開と都市権力」と題して報告する予定である。 ・あわせて、遊女集団と春日社との関係変容、ひいては遊女集団の崩壊過程を見通すべく、当該期の猿楽集団と春日社との関係との比較考察を行う。その成果は9月の能楽学会世阿弥忌セミナーにて報告し、能楽研究者との討論を行う予定である。
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Research Products
(4 results)