2021 Fiscal Year Research-status Report
Meteorological disasters and transformation of agriculture in the 13th and 14th centuries : toward the construction of a history of environmental response
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21K00857
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
伊藤 俊一 名城大学, 人間学部, 教授 (50247681)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 荘園史 / 災害史 / 農業史 / 気候変動 / 環境史 / レジリエンス / 日本中世史 |
Outline of Annual Research Achievements |
藤木久志編『日本中世気象災害史年表稿』に採録された洪水・旱魃・大風などの気象災害と、その結果引き起こされた飢饉・疫病についての史料を13~14世紀について見直した。その結果、13世紀中葉までの気象災害の激しさが13世紀末からは緩和される印象を持った。同時に13世紀中葉までは朝廷・幕府とも気象災害について真剣に対応しようとしているのに対し、13世紀末からその姿勢は弱まる印象を持った。これが史料の残存状況によるものか、気候変動の度合いによるものか、「職の一円化」に伴う社会の分節化の進行によるのか、あるいは地域社会で災害に対するレジリエンスが高まったことによるものか、今後の検討課題となった。 また『吾妻鏡』には特に災害・災厄に対応した記事が多く、その史料的性格に注意しつつも、鎌倉幕府の民政について検討することも今後の課題となった。 14世紀については、伊藤啓介氏が提起した「大飢饉のない14世紀」の検証も行ったが、1320~23年,1330年,1350年前後に飢饉は起こっており、疫病の発生もみられた。これらは「大飢饉」ではなかったかもしれないが、飢饉の規模については今後の検討課題となった。 この作業と並行して、古気候学者の中塚武が明らかにした降水量の変動を表すデータと、記録中の祈雨・止雨奉幣等の記事を対照したところ、極めてよく対応することがわかり、改めて中塚データの信頼性が確かめられた。 また播磨国矢野荘の検注帳から13世紀~14世紀初頭の開発過程を読み取ることができないか検討した。さらに鎌倉後期に頻発する「堺相論」について、環境利用の観点から従来の研究の見直しができないか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『日本中世気象災害史年表稿』を手がかりに広範囲に史料を読み、いくつかの仮説を立てることができたが、研究論文に落とし込めるトピックにまで絞り込めていない。新型コロナウイルス禍による出張の禁止で調査出張に行けず、麦作・水田二毛作の拡大の検証には着手できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の作業によって提起できた仮説や課題、鎌倉幕府の災害対応、13世紀末の地域社会のレジリエンスの強化、「大飢饉のない14世紀」仮説の可否、播磨国矢野荘の開発過程について、史料と先行研究の収集・読み込みによって検討する。新型コロナウイルス禍による出張禁止が解けたら播磨国矢野荘、紀伊国官省符荘、豊後国田染荘などに調査出張を実施し、麦作・水田二毛作の拡大の検証に取り組む。
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Causes of Carryover |
当初は『南北朝遺文』の欠本など13~14世紀の史料集を揃える予定だったが、『日本中世気象災害史年表稿』を手がかりとした史料読解を優先したため今年度は一部の購入に留まった。新型コロナウイルス禍による出張禁止のため、調査出張ができなかったため次年度使用額が生じた。 来年度は残りの史料集を購入するとともに、出張禁止が解かれ次第、調査出張を実施する。
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