2021 Fiscal Year Research-status Report
History of Sogdians as seen from coin legends in Sogdian script
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21K00896
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
吉田 豊 帝京大学, 付置研究所, 教授 (30191620)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ソグド / シルクロード / セミレチエ / コイン / バクトリア / アクベシム |
Outline of Annual Research Achievements |
中央アジアがイスラム化する9世紀以前のソグド語圏で発行されたコインを研究対象として,コインに見られる銘文を読み解くことによって,この地域の歴史を明らかにすることを課題にする研究計画である. とりわけ筆者は帝京大学文化財研究所が行っている,キルギス共和国の北部,チュー川流域の遺跡の発掘でみつかる鋳造コインに見られるソグド語銘文を解明するという使命がある.そのためには,これまでこの地域でどのようなコインが発見され,どのような研究が行われてきているかという,研究史の把握をまず最初に行う必要があり,2021年度はまずその作業を行った.過去の重要な研究はロシア語で書かれているため,特に重要な論文を翻訳して発表した.その際,単なる翻訳に留まらず,内容を批判的に検討することにして,訳注や付録を充実させた.これはこの地域で出土するコインに興味を持つ日本の中央アジア学研究者の大きな便宜になる.また,帝京大学のチームがこれまでの発掘で発見したコイン約100点を整理し,従来の研究で報告されているコインと比較した.さらに,キルギス在住の古銭学者から新発見のコインの銘文解読の依頼があったことをきっかけにして交流が始まり,最新の情報を得ることができるようになった. コロナウイルスの流行で遺跡の発掘が行えなかったが,ソグド語圏で発行されたコインを所有する日本の個人の研究者と接触し,そのコレクションの調査をはじめることができた.かなりの量のコインが所蔵されており,それらを段階的に調査しカタログ化する計画について所蔵者の了承を得ている.ソグド語圏のコインは,中国式の方孔・鋳造コインと,西方式の鍛造コインがあるが,西方式のコインは,ソグド語圏の南のバクトリアや西のペルシアのコインの影響がある.幸いこのコレクションにはそれらのコインも含まれていることが分かったので,バクトリアのコインの研究も始めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウイルスの流行により当初予定していたキルギス共和国での現地調査を遂行できなかったため,計画していたことを達成できなかった点が大きな問題であった.しかしそれはある程度予想できた事態であり,2021年度は,日本国内で実行可能かつ必須の準備作業として,ソグド語圏で発見されたコインとその銘文についての先行研究の把握に注力した.とりわけキルギス共和国北部のチュー川流域で出土するイスラム化以前のコインについては,ほぼその全体像を把握できたことは大きな収穫であった.そしてロシア語で書かれた重要な先行研究を翻訳して発表したが,その際,先行研究を少なからず改善することができ,この分野の研究に貢献できた.またキルギス在住の古銭学者との電子メールを通じての接触・交流を始めることができたおかげで,出土コインに関する最新の情報や論文も入手できることができるようになった. これとは別に,日本の個人が所蔵するソグド語銘文のあるコインの調査を始め,それらのカタログ化や帝京大学博物館での展示の計画について所蔵者と合意することができた.今後,個々のコインの現物を詳細に研究するめどが立った. 出土するコインはさび付いているため,それを除去する必要がある.その場合,結果として文化財に手を加えることになり,問題があることが指摘された.その一方でさび付いたままでは銘文の研究は出来ないので,非破壊による調査の方法を筆者が所属する帝京大学文化財研究所の金属器の保存科学の専門家と検討している段階である.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,キルギス共和国を訪問し,遺跡や出土品の調査を行う.また現地の古銭学者と会い意見の交換を行う予定である.日常的には,日本の研究者が所蔵するソグド及び周辺地域で発行されたコインについて現物を見て銘文の解読を行い,カタログ作りの準備作業を行う予定である. これら一連の作業で一定の成果が得られると期待されるので,その成果を研究会や学会で口頭発表すると共に,論文として出版する計画である.また前年度に翻訳したロシア語文献があるので,それの刊行も予定している.単なる翻訳に留まらず訳注や,新しく判明した事実などを加えて学術性の高い出版物とするつもりである.中央アジアでもここで扱っている地域は文献史料が極端に少ないため,これまで日本では研究がほとんど行われていないので,日本における中央アジア研究への大きな貢献にしたいと考えている. ソグド語の銘文を読むためには,碑文や写本などソグド語文献全体の知識を深めることが是非とも必要である.陸続と発表されるソグド語研究の論文や書籍をフォローして最新の情報を得ておくだけでなく,筆者自身も未発表のソグド語資料を解読する作業を並行して行う計画である.具体的にはドイツに所蔵されている未発表のソグド語仏典の解読を,ドイツの研究者と共同で行う予定がある.
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行の影響で旅費の支出が制限されたため.今年度は事態が改善されると思われる.
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Research Products
(6 results)