2022 Fiscal Year Research-status Report
History of Sogdians as seen from coin legends in Sogdian script
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21K00896
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
吉田 豊 帝京大学, 付置研究所, 教授 (30191620)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ソグド人 / シルクロード交易 / コイン / チュー川流域 / アクベシム遺跡 / 突騎施 / 古銭学 / 中央アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は,キルギス共和国で出土するソグド語銘文のあるコインの現地調査をふくむコイン研究以外に,ソグド語そのものの言語研究を推進するとともに,シルクロードの歴史にかかわる論文を発表した.また研究成果の社会還元として,ソグド語文献やソグド語,ソグド文化に関する一般向けの解説を発表した. 9月初めにはキルギス共和国で出土コインについての現地調査を行った.別に,日本国内にあるソグド語銘文があるコインについて前年度より引き続き研究を進め,帝京大学文化財研究所がキルギス共和国のアクベシム遺跡で発掘したコインを整理し,それらを総合してソグド語コイン全般を扱う学術論文としてまとめた.これは,現在筆者が編集者の一人となって編集中の『シルクロードコイン研究(課題)』に収録される予定である. コインのソグド語銘文の解読には,ソグド語やソグド文字そのものについての深い理解が必要なことは当然である.筆者はかねてよりソグド語文法の研究を進めていたが,2022年度には,『ソグド語文法講義』というタイトルの一冊本としてまとめ,出版した.これはソグド語に関する専門書であるだけでなく,入門書としても使えるように配慮してあり,今後より多くの研究者がソグド語研究や,コインの銘文も含むソグド語文献,ソグド人の歴史の研究に参画できるようになるための必須の工具書となるものである. シルクロードの歴史や文化に関する研究として,シルクロードの交易を支えたソグド人のキリスト教信仰についての研究論文を発表した.シルクロードを伝って中国に入ったマニ教の絵画が10点ほど日本に保管されており,その一つについても日本語と英語で論文を発表している.またソグド人の信仰や文化を一般の人たちのために知ってもらうために,図版を多く掲載して平易に説明した解説文を執筆し,一般書の一章として発表している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ソグド語銘文を有するコインのうち,チュー川流域で見つかるコインについては,キルギス共和国の研究者と密接な情報交換を行いながら,これまで見つかっているものはほぼ全種類の型式を把握することができた.それによって帝京大学文化財研究所が,キルギス共和国のアクベシム遺跡を発掘した際に発見したコインを整理することができた.また,この地域で出土するコインのおおよその編年も分かるようになってきており,これまで現地の考古学者が発掘したアクベシム遺跡内の遺構の年代を修正することができるようになった. これとは別に,日本の収集家が所蔵しているソグド語銘文のあるコインについて,写真撮影を行うと共に,その写真や現物から銘文の解読および図像の解析を精力的に行ってきた.その際,帝京大学文化財研究所において,保存修復の専門家の協力を得て,コインの金属成分の分析も実施してきている.これらの研究によって一定の成果が得られ,それを研究書として刊行できる段階に到達した.現在その研究書の編集をほぼ終えていて,2023年度中には刊行できるめどが立った. コインの銘文や図像から歴史を研究する作業も並行して行っている.その過程で,現在のアフガニスタン南部で発行されたコインにソグド語の銘文を発見することができた.このことは,ソグド本土を遠く離れた国の経済にソグド人が大きな影響力を持っていたことを示す直接の証拠になり,ソグド商人の活動の範囲だけでなく,彼らが歴史的に果たした役割についての見方を変える発見になった. 図像と銘文の関係では,従来読み取ることができなかった銘文を解読できたことにより,コインに刻まれた図像が特定の神格のプロフィールであることを明らかにできた.この神格はソグド商人の強い信仰の対象になっていたことが文献資料からも知られているので,非常に興味深い発見になった.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2023年度には,現地調査を含め過去2年間国内で行ってきた研究を続ける予定である.その際キルギス共和国発見のコインと印章のソグド語銘文について,現地の研究者と共同で研究する計画がある. これまでは,主にソグド語圏の東方地域のコインを扱ってきたが,サマルカンドやタシケントなど,より西方のコインについても研究を進め,ソグド語銘文を持つコインの全体像を把握することに着手する予定である.その際,コインの現物を所蔵する日本の収集家と帝京大学文化財研究所の保存修復の専門家の全面的な協力を得て,非破壊調査によるコインの金属成分分析の結果や,鍛造と鋳造の区別などについても参考にしたい.中央アジアに位置するソグド語圏では,コインは西方の伝統に基づき長い間鍛造されていたが,シルクロード交易の全盛期には,中国の影響で一部の地域では鋳造コインも発行されていた. これらの研究にもまして,最終年度は,これまでの研究成果をまとめて,論文として発表する作業をおもに行う.現在編集中の『シルクロードコイン研究(仮題)』の出版を始めとして,ソグド語銘文を持つコインの銘文の解読,型式の解明,図像の分析と解釈から明らかになる,この地域の歴史や文化についても研究論文を発表する.そしてその成果を一般向けに平易に説明する解説文を発表したいと考えていて,すでに出版社との交渉を始めている. コインから経済史を解明することは非常に重要ではあるが,文献史料が皆無に近いソグド語圏では,コインが地元の経済において果たした役割を明らかにすることは全くできていない.どのような研究方法があるか貨幣史の専門家と相談する必要があるが,今のところ将来の課題である.
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行により,予定していた2回の海外調査のうち,本研究費の旅費で行う予定であった1回を行うことができなかった.なお予定していた2回のうちの1回は,申請者が分担者になっている科学研究費を支出して行った.ただ円安が進んで,分担金だけでは現地での調査ができなかったため,本研究費の一部も人件費として支出している. 本年度の夏にはキルギス共和国あるいはウズベク共和国で現地調査を行う予定にしており,本研究費から旅費を支出する計画である.
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Research Products
(6 results)