2021 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける特攻認識と戦争の記憶・断絶に関する国際比較研究
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21K00899
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
権 学俊 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20381650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 惠英 立命館大学, 言語教育センター, 非常勤講師 (60772704)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植民地朝鮮 / 朝鮮総督府 / 飛行機 / 航空政策 / 航空熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、主に植民地朝鮮における科学談論と科学技術進歩の一番強力な表象として大衆に認識された「飛行機」に与えられたイデオロギーを分析した。また、朝鮮人の生活の中に飛行機が浸透していくプロセスと航空熱の高揚、航空兵力として巻き込まれていく朝鮮人青年を考察した。これらの分析を通して、朝鮮人特攻隊員が誕生するまでの過程や朝鮮人青年の志願背景・理由を明らかにした。 飛行機は人間の科学技術が自然を征服する巨大な力を換喩するイメージとして描かれるとともに、科学技術が最も集約的に凝縮された先端機械として大衆に強いインパクトを与えた。朝鮮の少年たちにとって飛行機と空は、憧れの存在であった。帝国日本は様々な航空政策を展開し、飛行機を朝鮮の少年たちの生活になじませた。飛行機が持つ表象は、新聞広告やポスター、映画、博覧会を通して朝鮮人に強力的に伝えられた。帝国日本が進めた航空政策と親日派文学は、朝鮮の少年たちの戦争への恐怖を一掃した。そして、朝鮮人少年は、戦局が進行するにつれて、操縦士不足や熟練した航空人力の確保という日本政府の政策と朝鮮が置かれていた社会的環境により帝国日本の軍人となった。熟練したパイロットや整備士の養成は喫緊の課題であり、戦争の行く末を左右するといっても過言ではなかった。朝鮮総督府は、朝鮮人が操縦士に志願できる制度を導入・整備し、朝鮮人にも戦争に参加し皇国臣民として「死ぬ権利」を与えたのである。朝鮮人パイロットは植民地支配の下で創られた差別や抑圧、暴力や搾取、同化や順応の構造の中で、誕生した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
朝鮮出身の隊員は従来の特攻研究で見過ごされてきており、日韓両国の政治的・社会的状況などと相まって、長らく議論や学術研究の対象にならなかった。日本でも韓国でも忘却されてきた存在であり、日韓の狭間で「歴史の空白」として残っていたのである。 そのため本研究ではまず、朝鮮人特攻隊員はいかなる社会背景のもとで、どのようなプロセスを経て成立・誕生したのか。なぜ朝鮮人青年が「他者」として特攻隊員になり、どのような教育を受けて戦死したのか。朝鮮総督府の公文書や官報、総督府の機関紙『毎日申報』(『毎日新報』)『京城日報』といった当時の朝鮮の新聞、雑誌、映画、ポスター、国民学校の教科書などを分析し、その実態について歴史社会学的に明らかにする。また、日韓社会で長らく取り上げられてこなかった朝鮮人特攻隊員という戦跡が、再び「発見」「消費」されるようになったのは、メディアの影響が大きい。両国のメディアは朝鮮人特攻隊員にまつわる戦史とその記憶をどのように扱ってきたのかを分析するとともに、その表象が両国でいかに異なっていたのかを分析する。何よりも本研究が重視するのは、戦前から現在まで朝鮮人特攻隊員に対するイメージ・意識が日韓でいかに異なり、どのような変容を遂げて社会に受け入れられてきたのかという点である。そのため、特定の一人に焦点を当てるのではなく、できるだけ多くの隊員を対象とし、植民地政策史上の位置、「同化」政治の力学、朝鮮人特攻隊員の記憶が創出される過程などを両国の社会環境とメディアとの相互作用に注目しながら分析を進める。 これらの分析を進めるためには、韓国への資料調査・収集やフィールドワーク、元特攻隊員や韓国人遺族への聞き取り調査が必ず必要である。だが、2021年度はコロナ禍で韓国出張ができない状況だった。2022年度はコロナ感染状況を確認しつつ、韓国での資料収集や分析を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、多くの朝鮮人青年はなぜ日本軍パイロットになろうとしたのか。その動機は何だろうかについてさらに分析を進める。彼らは「日本人になりたい」という一心で、「皇軍」になると決めたのであろうか。朝鮮人青年の志願背景・理由を解き明かす。そして、なぜ特攻隊員となったのか。彼らを日本帝国主義と侵略戦争に協力した単なる親日主義者として断罪することはできるのだろうか。日本統治期の差別や抑圧、暴力や搾取、同化や順応の構造の中で、多くの若者が皇国兵士として戦争に参加した動機と思いをどのように考えればよいのかを考察したい。 また、戦後初期GHQの占領と独立、朝鮮半島の南北分断と朝鮮戦争の勃発、韓国の軍事政権の誕生が、特攻隊や朝鮮人特攻隊員に対するいかなる評価につながり、どのような意識を生み出したのかについて明らかにする。特に、韓国が軍事政権下で国家アイデンティティや正統性の樹立のため推進した「反共」「反日」主義のイデオロギーと、そのなかで排除・忘却される朝鮮人特攻隊員の記憶と多様な力学を析出する。
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Causes of Carryover |
2021年は新型コロナウイルスの拡大と感染予防によって、計画していた韓国をはじめ、台湾などの海外出張や資料収集、フィールドワークが全くできなかった。国内も調査活動も様々な制限があった。予定した研究活動が計画通り進まず、次年度使用額913,124円が生じた。2022年度は、新型コロナウイルスの感染状況や立命館大学の出張方針を確認しつつ、できるだけ海外・国内資料収集やフィールドワークを実施すると共に、研究成果をさらに発表する。2022年は特に、資料分析のための人件費や研究成果報告のため国内外の研究会・学会の参加費や出張費に使用する。
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Research Products
(6 results)