2022 Fiscal Year Research-status Report
19-21世紀中国ムスリムの聖者崇敬論の中国的洗練をめぐるイスラーム世界史的把握
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21K00906
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 竜也 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (40636784)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 中国ムスリム / ムジャッディディーヤ / スーフィズム / 聖者崇敬 / 預言者一族 / 門宦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19-21世紀の中国ムスリム(漢語を使用するムスリム)が、近代イスラーム世界の重要な論題のひとつ、聖者崇敬をめぐる、西・南・中央アジア由来の諸言説を如何に受容したかを通時的・地域横断的に検討することで、彼らによるイスラームの中国適応に向けた努力の様相を動態的・多層的に捉えるとともに、その展開をイスラーム世界思想史の上に位置付けることを目指すものである。また、中国ムスリムによるイスラームの中国適応の努力が、時に彼らの内部分断を助長するなどの社会的副作用を伴ったことに特別な注意を払い、その様相の解明をも試みる。 本年度は、スーフィズムの一流派、ムジャッディディーヤ派が19世紀初めに中国西北部に流入した後、同地域にどのようなインパクトを与えたかを検討した。そして、19世紀後半における同派の台頭が「中国のスーフィズムは四大流派(四大門宦)から成る」との言説の形成を促したこと、さらに20世紀には中国西北部のスーフィーたちが聖者崇敬擁護の文脈で当該言説を援用し、「中国ムスリム」の団結や中華民族への統合の主張と結びつけながらも、聖者崇敬反対派との溝を深めたことを明らかにした。この成果をもとに、国際会議Islam in China: Sect and Sectarianismで英語による口頭発表を行った。 また、中国ムスリムによるイスラームの中国適応と内部分断の問題については、清代のある預言者一族が、漢人社会・中国ムスリム社会双方における生存競争を背景に、自らの預言者血統をめぐる言説を調整していたことを論じる中で、彼らが両社会への同時適応がもたらす内部分断に如何に対応しようとしていたかも明らかにした。この成果は、「「聖」なる賽典赤とムスリム・アイデンティティ――清代中国の預言者一族の対外生存戦略と内的緊張関係」という和文論文にまとめて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたとおり、19-21世紀の中国西北部のムジャッディディーヤ派に関する研究に大きな進展があった。 その他、当初計画で予定していた、19世紀雲南の中国ムスリム学者、馬安礼の漢語著作『天方詩経』に関する研究も、ある程度進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、馬安礼の漢語著作『天方詩経』に関する研究を進める。 加えて、中国西北部のスーフィズムの一派ジャフリーヤ派のアラビア語聖者伝を検討し、20世紀における聖者崇敬の様相を吟味する。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナ禍のため海外調査が予定通り実施できなかった。また、英文校閲費の使用を予定していたが、原稿執筆の遅延で未使用となった。次年度にこれらの計画を実施することで予算を使用したい。
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