2023 Fiscal Year Research-status Report
合衆国西部の水利権係争に働く部族主権の検討:モンタナ州水利権合意に焦点をあてて
Project/Area Number |
21K00929
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アメリカ先住民 / 保留水利権 / 水利権合意 / 水資源管理 / 部族主権 / モンタナ水利権保護法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、20世紀後半の合衆国西部における水利権係争を、アメリカ先住民部族の視点から検討することにある。令和5年度は、モンタナ州北東部にフラットヘッド保留地を有するセイリッシュ・クートナイ部族連合(Confederated Salish and Kootenai Tribes)の水利権請求を、現地調査、及び資料調査をもとに検討した。セイリッシュ・クートナイ連合は2015年にモンタナ州との水利権合意を果たし、その合意は2020年、合衆国議会の承認を得て「モンタナ水利権保護法」として制定されている。 1970年代以降、先住民による水利権請求が活発に行われるようになった状況を、「第二の条約締結期」の到来と見る向きもあるが、部族―州―連邦が関わる水利権合意の締結は部族にとって訴訟提起にも勝る複雑で困難な要素を有する。水利権の問題は部族領土の問題と深く関わっているため、研究では州との水利権交渉における部族主権のあり様を考察するに先立ち、1)セイリッシュ・クートナイ連合が1855年に締結したヘルゲイト条約と、その後に部族が経験することになった一般土地割当法の適用による土地喪失とその影響について検討した。セイリシュ・クートナイ連合がモンタナ州との水利権合意交渉に臨んだのは2000年だが、部族連合は1970年代から州における部族水利権の扱いをめぐって、モンタナ州の他部族と共に司法の場で争ってきた。研究では、2)1979年モンタナ水利用法制定以降、セイリッシュ・クートナイ連合が水管理にどのように関わってきたのかを整理した上で、3)2000年以降に展開された州と部族連合との交渉経緯を検討することで、セイリシュ・クートナイ連合が水利権をめぐって発動した部族主権について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、モンタナ州での現地調査を実施した。フラットヘッド保留地では、セイリッシュ・クートナイ部族連合が部族の長年の懸案事項であった「カー・ダム建設による水資源の搾取」及び、「国立バイソン・レンジ設立による土地剥奪」を、州や連邦との水利権合意折衝のなかでどのように解決しようとしたのかについて、示唆を得ることができた。ノーザン・シャイアン保留地では、水利権合意の履行状況について調査した。 令和5年度は、部族ー州ー連邦の間の水利権合意に至る過程における訴訟、折衝の数々を検討することで、先住民部族がどのような策を講じて、これまで被ってきた歴史的主権侵害に解決の糸口を見出そうとしたのかについて、検討することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は先住民の保留水利権が議論される起点となったモンタナ州フォートベルトナップ保留地の水管理状況、及び合衆国における水利権訴訟として最も高額な訴訟となったワイオミング州ウインドリバー保留地の水利権訴訟について、現地調査をもとに検討を行う。 最終年度となる令和6年度は、20世紀初頭の大規模水開発によって部族水利権が損なわれた南西部部族の水利権交渉についても検討する。これらの検討を通して、20世紀西部水資源係争の有り様を包括的に把握する。
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Causes of Carryover |
購入予定であった書籍の入手が叶わなかったため。
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