2021 Fiscal Year Research-status Report
ハワイにおける日系水産業の歴史的展開と太平洋史の構築への模索
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21K00930
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小川 真和子 立命館大学, 文学部, 教授 (60443610)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ハワイ金刀比羅神社 / アメリカ司法省 / GHQ/SCAP / 日系ハワイ移民史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に1920年代にホノルルで日系漁民らによって設立されたハワイ金比羅神社を取り上げて検証した。同神社についての一次資料は極めて乏しいが、米国公文書館所蔵のGHQ/SCAP関連コレクション、及びハワイ大学図書館ハワイパシフィックコレクションで入手した一次資料の分析を通して、同神社の設立と発展、戦時中および戦後の体験を検証し、あわせてアメリカ連邦政府による神道理解について分析した。 その結果、西日本を代表する海神である金刀比羅信仰が、そもそもどのような特徴を持つのか、さらにそれがどのようにして日本の勢力圏外であるハワイに広まったのかが明らかになった。さらにアメリカ連邦政府による金刀比羅信仰の解釈の詳細も明らかにした。神道は極めて多彩な特徴を持ち、とりわけ海神である金刀比羅信仰は、高い移動性と自立性を持っているため、漁民とともにどこまでも移動し、独自に発展する特徴を備えている。しかしアメリカ政府は金刀比羅神社を硬直化した国家神道の枠組みで解釈した結果、日本帝国の出先機関と断定し、弾圧を加えた。このように、ハワイ金刀比羅神社の歴史的経緯の検証を通して、ハワイの日系水産業者を取り巻く文化について、社会史的な視点から、理解をさらに深めることが出来た。 この研究成果は、次年度刊行予定の査読付き学術誌に採用された。 さらにこの研究成果をオンラインにてAssociation for Asian Studies Annual Conferenceで研究報告を行い、他の研究者との意見交換を行った。 また学部生向けの教科書(2022年度刊行予定)を分担執筆し、「太平洋世界における人の移動」をテーマに掲げ、太平洋を往来した漂流民や移民、そしてハワイの日本人漁村における女性の歴史と日系水産業を通して見るハワイ日系移民史について解説した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はコロナ禍のため、当初予定していたハワイやワシントンDCでの一次資料収集を行うことが出来なかった。しかし既に手元に蓄積されていた一次資料の読み込みと分析を行い、ハワイの日本人漁民らが設立し、戦後、アメリカ連邦政府によって「敵性資産」と見なされ没収されたハワイ金刀比羅神社に関する研究を行った。そして、その成果を学術論文一本及び学会発表一本にまとめることができた。 さらに沖縄にて資料調査及び関係者への聞き取り調査を行い、戦後、沖縄県糸満市に設立されたひめゆり祈念資料館とハワイとの関係について、新たな研究テーマの着想を得ることが出来た。 見通しがつかないコロナ禍での研究活動ではあったが、国内での研究活動を続けており、オンラインにて国際学会に参加するなど、おおむね順調に研究を進展させている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトの主なテーマである、ハワイにおける日系水産業の歴史的解明を、今後も引き続き行うとともに、もう一つのテーマである太平洋史構築の可能性をさらに追及する。とりわけ英語圏において、太平洋史の可能性を巡る議論が非常に活発化している。それらの議論の詳細を検証するとともに、太平洋を行き来した人々、漁民だけでなく宣教師や密航者、プランテーション経営者やその労働者、さらに教育者など、さまざまな人々にも言及しながら、それらの人びとが構想し実現を目指した「太平洋世界」とはいかなるものだったのかを検証することで、太平洋史構築の可能性を探る予定である。 また今年度の研究において、戦時中に日本軍によって動員され、多くが命を落とした「ひめゆり部隊」と、戦後に設立されたひめゆり祈念資料館が、ハワイと深い関係を持っていることが分かった。これは研究計画当初、予測していなかったことではあったが、本プロジェクトとも大いに関わっていると判断したため、引き続き検証をすすめ、国際学会にて報告し、論文にもまとめる予定である。 さらにコロナ禍が終息した場合は、ハワイ州立公文書館やハワイ大学図書館ハワイパシフィックコレクション、さらにワシントンDCの国立公文書館にて、20世紀におけるハワイの日系水産業に関する一次資料収集を行うことを予定している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で海外出張が禁止されたため、当初予定していたアメリカ・ハワイ及びワシントンDCでの一次資料収集及び関係者への聞き取り調査を行うことが出来なかった。また国内においても、山口県などで関係者への聞き取り調査や民家に所蔵されている一次資料の収集を予定していたが、対象者の多くが高齢者であり、新型コロナウィルスに感染した場合の重症化リスクが高いため、訪問を控えた。さらに、国際学会もオンライン開催となったため、予定していた旅費の多くが未執行となった。 次年度以降は、コロナ禍が収まれば十分な感染対策を施しつつ、国内外での資料収集活動を行う。また国内および国際学会も、対面での参加を予定しており、国内外の研究者との意見交換を一層活発に行うつもりである。
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Research Products
(1 results)