2021 Fiscal Year Research-status Report
Public Speaking and Literate Culture in Classical Athens
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21K00940
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐藤 昇 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (50548667)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / アテナイ民主政 / レトリック / 演説文化 / 文書文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古典期(前5世紀から前4世紀)の民主政アテナイにおいて発達した実践的な「演説文化」に対して、同時代に進展した制度や社会の「文書化」傾向が及ぼした影響を解明するものである。研究対象は、実践的な演説の中でも、とりわけ法廷演説を主たる対象とする(ただし、民会演説も必要に応じて対象に含めることとしたい)。それらの演説の中で文書(証言、証拠文書、法や決議等)が利用される際、如何に言及され、如何なる修辞的機能を付与されていたのかについて、体系的に整理するとともに、アテナイ社会及び法制度の変化がこれらに及ぼしていた影響を明らかにするものである。以上の作業は、アテナイ民主政を熟議民主主義の一形態と捉え、演説文化という新しい観点から古代民主政像を書き換える研究の一環をなすものである。 2021年度は初年度であり、先行研究の分析に努めると同時に、関連する史料群の分析を進めた。先行研究については科研費を利用して必要な文献の収集に努めた。また史料分析に関しては、種々の文書の中でも、とりわけ証言の使用に関して研究を進めた。具体的にはデモステネスやアイスキネス、リュシアス、イサイオスらの法廷弁論、とりわけ私訴弁論を中心に扱い、それらの演説の中で読み上げられる証言(文書)について分析を進めた。その結果、証言は大抵、演説本体で提供された情報に対して、その内容を確認するためだけに引用されていたに過ぎないが、折に触れて聴衆を飽きさせないための効果、あるいは聴衆からの反感を避けるためのレトリカルな効果を期待しながら利用されていた可能性が明らかとなった。この点については、英語論文としてまとめ、国際共著論集に収録されて発表された。さらにこれと関連して、古典期アテナイの演説に対する野次・歓声の抑制・効能に関する論文を発表し、さらに関連する古代ギリシア文化の長期的変化についての論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で種々の制約があった中、本件に関する先行研究の収集はある程度順調に進んだ。コロナ禍により国際的な流通の問題が生じたため、一部の洋書については年度内に入手が叶わなかった文献もあった。また通常であれば国内外の図書館・研究機関に出張して文献収集にあたるところ、コロナ禍に伴う移動制限から必要な文献の入手にも手間取ることがあった。このため、文献入手状況は必ずしも理想的とは言い難いところもあったが、全般的に見れば、初年度の研究準備に必要な国内外の文献は概ね入手することができたと言える。 先行研究の分析については、新規に入手した文献と既に入手していた文献をもとに分析を進め、この点についてはほぼ予定通りに進行していると言えるだろう。 また史料分析に関しては、法廷弁論における証言に関する分析が、既にある程度予備調査を進めていたため、その蓄積を生かしてさらに分析の精度を高め、関連文献の再検討も行い、論文を執筆するところまで漕ぎ着けたばかりか、さらに論集として発表するところまで進めることができ、この点に関しては当初の計画以上に進展しているといえる。また関連するトピックに関しても、近刊予定のものも含め、複数の論文を執筆することができ、研究をかなり推進することができた。 以上、全体を勘案すれば、全体としては当初の計画以上に進展したということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の分析対象となる公的な文書のうち、証言はもっぱら法廷においてのみ用いられるものであった。このため、これまでの研究では、法廷弁論の分析が中心課題となっていた。これに対して、2022年度から2023年度にかけて従事するのは、法や決議などの文書の利用法である。これもまずは法廷弁論を中心に分析を進めるが、しかし民会演説における利用法についても分析を進めなければならない。というのも、これまでの研究の中で、演説文化の特徴を見出す際、法廷弁論と民会弁論の差異など、演説を行う場、状況が大きな影響を与えていること、その違いを踏まえて演説に用いられる修辞技術が分化・精緻化していることがわかってきている。そのため法廷弁論だけではなく、民会弁論も分析対象に加えて、相互の差異などに注目する必要がある。さらに民会演説は、現存するデモステネスの演説の他に、トゥキュディデスなどの歴史家が残した歴史書の中にも多くの演説(正確には演説を再構成したもの)が含まれており、これらも検討の俎上に載せることとなる。歴史書に含まれる演説は、実際の演説そのものではあり得ず、再構成したものであるため、分析の際には史書全体の意図、文脈なども考慮する必要がある。これらについて分析を進め、得られた成果を口頭発表や論文として発表してゆく。 なお、今年度は、後期から英国ロンドン大学に拠点を移して研究を行うことができる予定であるため、この分野の研究が進んでいる英国やヨーロッパの研究者と意見交換を重ねながら、研究の深化に努めてゆく。
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[Book] Witnesses and Evidence in Ancient Greek Literature2022
Author(s)
Andreas Markantonatos, Vasileios Liotsakis, Andreas Serafim, Edward M. Harris, Asako Kurihara, Guy Westwood, Noboru Sato, Pasquale, Massimo Pinto, Robert Sullivan, Ioannis N. Perysinakis, David Mirhady, Margarita Sotiriou, Smaro Nikolaidou, Rosalia Hatzilambrou
Total Pages
306
Publisher
De Gruyter
ISBN
9783110751161
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[Book] Transmission and Organization of Knowledge in the Ancient Mediterranean World2022
Author(s)
Yoshiyuki, Suto ed., Josine Blok, Andronike K. Makres, Yasuhira Yahei Kanayama, Noboru Sato, Kyoko Sengoku-Haga, Kostas Vlassopoulos, Lilian Karali, Catherine Morgan, Judith M. Barringer, Marion Meyer, Elizabeth A. Meyer, Irad Malkin, Mariko Sakurai, P. J. Rhodes, J. E. Lendon, Akiko Moroo, Hajime Tanaka
Total Pages
295
Publisher
Phoibos Verlag
ISBN
978-3-85161-260-8
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