2023 Fiscal Year Research-status Report
Public Speaking and Literate Culture in Classical Athens
Project/Area Number |
21K00940
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐藤 昇 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (50548667)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | レトリック / 文書 / 民主政 / 古代ギリシア / アテナイ / 西洋史 / 修辞 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古典期(前5世紀から前4世紀)の民主政アテナイにおいて発達した実践的「演説文化」に対して、同時代に進展した制度や社会の「文書化」傾向が及ぼした影響を解明するものである。法廷及び民会で実際に披露されることを想定して制作されたと考えられる演説を対象とし、その中で文書(証言、証拠文書、法や決議等)が利用される際、如何に言及され、如何なる修辞的機能を付与されていたのかについて、体系的に整理するとともに、アテナイ社会及び法制度の変化がこれらに及ぼしていた影響を明らかにするものである。 2023年度も引き続き、先行研究の分析に努めると同時に、関連する史料群の分析を進めた。先行研究については科研費を利用して必要な文献の収集を行なった。2023年度前半は主にロンドンに拠点を定め、英国、欧州の研究者との意見交換を重ねた。また、今年度は特に弁論資料とその他の文献資料との関係性について考察を進め、まず歴史叙述と法廷弁論の修辞技法の比較を行って、両者には影響関係と共に大きな乖離があることを明らかにした。この点については2023年にロンドンの国際学会で口頭報告を行った。また喜劇における演説箇所と民会演説の比較を行い、喜劇特有の環境が演説描写にもたらす影響について分析を進めた。この点については2023年にコインブラ(ポルトガル)で開かれた国際学会において口頭発表を行った。さらにデモステネスが民会演説を「文書」として発表したのか否か、という点について法廷弁論との比較から分析を進め、デモステネスの文書利用の革新性を新たな視点から指摘した。この点については2024年3月にアテネ(ギリシア)の国際学会で口頭発表を行った。これらについては英語論文として発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代ギリシアの演説と文書利用に関する国内外の先行研究を収集して、着実に分析を進めることができた。とりわけ2023年度前半はロンドン大学を中心に活動できたため、必要な文献を十分に閲覧、収集することができた。これらの分析を通じて旧来議論されてきた論点について概観を得ることができ、また新たな視点での分析に踏み込むことができた。すなわち、法廷弁論や民会弁論以外の文献資料(ディオドロスやアッリアノスといった歴史叙述、アリストファネスの喜劇など)を比較対象に加えることで、法廷弁論、民会弁論の特性をより一層明らかにすることができた。この点は、本研究プロジェクトに新たな視点を加えることとなり、研究上も大きな進展を見た。すなわち、他ジャンルとの比較を通じて得られた知見については、異なる論点の口頭報告を3件、国際学会で行い、海外の研究者から的確なフィードバックを得ることができた(口頭報告のうち一つは、本科研費を用いて共催により開催した国際学会において発表を行なった)。以上の成果は、まだ論文として公刊はされていないが、現在、そのための準備を進めており、次年度中にはいくつかの論文を投稿、発表できる段階にある。また、これに関連して学術的な論考も3本発表することができた(歴史叙述に関する英語論文1本、古代ギリシアのポリスに関する日本語論文1本、史料論に関する日本語編著書1冊)。以上のことから考えて、総合的に見て、研究は概ね順調に進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、まず、昨年度、国際学会で行った3本の口頭報告を中心に英語論文としてまとめ、国際誌または共著論文集への寄稿という形で発表できるように準備を進める。また、演説以外の比較対象として、プラトン『ソクラテスの弁明』も加え、これについても論文を執筆し、今年度中に発表する。さらに、これまで分析してきた、デモステネスやアイスキネス、リュシアスなどの法廷弁論における文書引用のあり方について整理を行い、研究会発表を行った上で論文にまとめる。その際、議論をブラッシュアップするために夏季に渡英し、英国やヨーロッパの研究者と意見交換を重ね、また国内の研究会・学会を利用して国内の研究者とも意見交換を重ね、研究の整理とさらなる深化に努めてゆく。
|
Research Products
(9 results)