2021 Fiscal Year Research-status Report
Basic Research on the actual situations of the Imperial Court in the Roman Empire
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21K00946
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
新保 良明 東京都市大学, 共通教育部, 教授 (60206331)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 皇帝権力 / 皇帝裁判 / 元老院裁判 / 元首政 / 判決の不当性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、いわゆる帝政前期の「元首政」概念に再検討を迫るものである。その手がかりとして皇帝裁判の実態に着目した。初代皇帝とされるアウグストゥスは「同等者中の第一人者」という立場を表明し、自らが支配者でないことを明らかにした。この姿勢はどこまで維持されたのであろうか。 皇帝裁判が史料的に明瞭に確認されるのは3代目の皇帝カリグラ(位37~41年)からである。そこで、本年度はカリグラからネロ(位54~68年)までの皇帝裁判事例を史料に当たり精査した。その過程で多くの裁判事例が確認されたが、それらの中には元老院裁判事例も含まれていた。かかる作業を通じて、いわゆるユリウス・クラウディウス朝の後半を形成する当該期(37~68年)の約30年間に様々な裁判事例(元老院議員を被告とするケースに限る)が確認された。内訳は以下の通りである。「皇帝裁判における被告議員:延べ60名」/「元老院裁判における被告議員:延べ44名」 このデータからは皇帝が元老院議員を積極的に裁こうとする姿勢をうかがい知ることができる。しかも、皇帝裁判は各皇帝の治世後半に集中している一方で、元老院裁判は治世を通じて発生していることが諸事例から確認された。 これらから、皇帝が即位当初は元老院を尊重する姿勢をみせながら、途中から独裁モードへと方針を意図的に切り換えたという結論が容易に導かれよう。初代皇帝アウグストゥスに始まる政体はこれまで、事実上の支配者である皇帝が元老院を重視し、共和政的伝統を引き継いだという点から「元首政」と評価されてきたが、実態は帝政初期から皇帝の暴力装置としての「皇帝裁判」を認めざるをえないのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍の中、出張はできないし、首都圏の大学図書館も閉鎖されており、情報収集という点での閉塞感があった。さらに、学会もZoom開催となってしまったために、情報交換の場という機能が成立しなかった。 このような結果、当該研究課題にとって有益な研究書、研究論文についての情報を得ることができなかったのみならず、研究の方向性を相談する機会が失われた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は今年度の被告リスト化の延長上として、ウェスパシアヌス朝(69~96年)、五賢帝(96~180年)、セウェルス朝(193~235年)の裁判事例を史料から明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の中、出張が全くできなかった。
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